週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ピエロがお前を嘲笑う』★★★☆☆

 

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  TSUTAYAで以前からサスペンスの棚で推されていたので気になっており鑑賞。一応ネタバレ注意タイプの作品なので、ネタバレ有無を分けて感想を書く。

 ネタバレなしで言うと、まあ、暇なときに見るくらいならあり、と言った感じ。いろんな作品の要素が目白押しになっているのでサスペンス好きなら退屈しないだろう。尺もさほど長くなく、テンポも良い。

 だが、取り立ててプッシュするほどではない。間違ってもガチンコのサイバークライムものを期待するとがっかりするだろう。

 以下、ネタバレあり。

 

 

 

 

 

 

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 どこかの推薦文で、映画ファンほど騙される、と言う言葉を見かけた気がするが、確かに。『ユージュアル・サスペクツ』『ファイトクラブ』『真実の行方』を足して、サイバークライムサスペンス風味を加えて三で割った感じ。主役の顔がエドワード・ノートンに似ているのも狙いだろう。

 ただ、「信じていたものが嘘かと思ったらやっぱり真実でした」と言う落ちなので、そう言うどんでん返し作を知らない人はむしろ拍子抜けするのではないか。映画オタクが作った映画オタク向け作品と言える。

 

 サイバー犯罪の描き方としてはかなり古臭いというか、そこまでリアルで侵入できるんだったら爆弾でも仕掛けたら?と感じるほどのアナログな手法。なんで映画やドラマのハッカーはフードをかぶるんだろうか。

 ヒロインの魅力も主人公の魅力も、主人公の仲間たちの魅力もいまひとつ伝わってこない。ハッキングと主人公の悩み、加えてラストのトリック、主題が結びつきが足りていないので、この物語を通して描きたいことが浮かび上がってこない。

 

 それと肝心のラスト、証人保護プログラムを手に入れるために主人公たちがとった行動だが・・・針の穴に糸を通すような作戦なのはどうにも気に掛かる。全員があの状況で逃げるのにはユーロポール内部に入って偽造書類を作るしかなく、そのためには捜査官に協力してもらう必要があり、そのためには嘘の多重人格を全面的に同情してもらう必要が・・・って流石に作戦として厳しすぎやしまいか。

 短めのサスペンスとしては気楽に見られるが、それ以上にお勧めする気にはならない、といった感じ。

『IT THE END ”それ”が見えたら、終わり。』★★★☆☆


IT CHAPTER 2 Trailer (2019)

 前日に1作目を再度鑑賞し、万全の体制で『Chapter 2』を鑑賞。

 悩ましい。映画としては正直、★3つといったところ。前作ほどのジャンルムービーとしての美しさがないのだ。アイディア不足なのか、それとも物語の構成上仕方ないのか。

 

 1作目はジュブナイルムービーでもあったので、そのノスタルジーに浸れる意味でも二重に嬉しい作品だったのだが、本作は大人たちが27年前のことを思い出そうとする、という構成。前作では描かれていなかったことがたくさんあった・・・という内容。

 ネタバレを避けると、ある登場人物に関してはなるほど、この構造だからこその納得のいく物語が描かれていた。本作は実質その登場人物が主役と言ってもいいくらいの活躍を見せる。しかし、他の人物に関してはどうだろうか。

 

 ホラー映画の2作目の場合、登場人物が同じだと、1作目で成長したはずの彼らがどうしてもう一度事件に巻き込まれなければならないのか、恐怖を克服したはずなのに、という部分がどうしても気になってしまうのだが・・・そこに関する描写はほぼ皆無だった。1作目の彼らの頑張りはなんだったのか。

 

 ノスタルジーに振り切るならそこにもっと力を入れて、嫌な田舎、嫌な大人たち、でも自分たちもそんなのになってしまった、みたいな、大人編でなければ描けないことを描くべきだと思うのだが、やっていることがほとんど子供編の再生産に近いものだから、正直新鮮味は薄い。流石に繰り返し感が強いのだ。

 プラス、1作目は怖がっているのが子供だから、少々のことで怖がっていてもそんなに違和感はなかったのだが、40代のいい大人たちが驚くにしては幼稚過ぎないか・・・と感じる部分もちらほら(ペニーワイズのやっていること自体は一貫している)。これはもう、「怖いと思うもの」が大人になると変わってしまうので仕方ないとは思うが。

 

 そして、ペニーワイズとの対決も1作目の方が好きだったな・・・。あくまで「ホラー映画」というジャンルの中でなんとかしていた1作目、アメリカの田舎町だからこその物語になっていたと思うのだが、今回はむしろ『ハリー・ポッター』あたりに近い雰囲気。

 それに、オカルト的説明のパート。おそらく原作だとちゃんと説明しているのだろうが、尺の都合ですっ飛ばされたのは疑問だった。普通に口頭で説明することもできる程度の内容だったと思うのだが。なぜあのような変わった描写で収めようと考えたのか・・・。

 だったら「全く訳がわからない、奇怪な化け物」で漠然と閉めた方がいいと思うのだが・・・。それでも、退治する方法はいかようにでも作れたと思う。あの終わり方なら。

 

 とはいうものの、個人的にはペニーワイズの活躍をたくさん観れたのでまあ満足(本心からいうと、CGをあまり多用せずにビル・スカルスガルドの演技力でもたせていた1作目の方が好きなのだが)。これからゆっくり、原作を読んでいこうと思う。

 

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『ジョン・ウィック パラベラム』★★★★☆


キアヌ・リーブス主演『ジョン・ウィック:パラベラム』特報

 

 シリーズのファンなので鑑賞。とはいえ1、2作めはネットフリックスで見たが。

 相変わらず魅力的なキアヌ・リーブスのスーツ姿と、独特のアクションを楽しむ大作。規模的にも今回はすっかり大作になった。

 ハル・ベリーの立ち位置が意外とあっさりしているのも(ザ・ゲスト出演、という感じ)驚いたが、その分凄まじいアクションを自分でこなしているので満足。というか、キアヌが全部自分でやっちゃうので、別にアクション俳優ではない彼女も同じようにやらねばならず大変だっただろう。

 ストーリーも前作から確実に動いてはおり、シーンごとのアイディアの豊富さも抜群。どうやって撮っているのかさっぱりわからないバイクシーンや馬シーンは目をまん丸にして鑑賞していた。

 一方、ストーリーの方は少々錯綜し始めたと言わざるを得ない。過去作の動機と行動が一直線に結びついたシンプルな構図から、今回は今行われていることがなぜ行われているのかなかなかわかりづらい。「平穏→激怒→復讐」の構図はさすがに3回も繰り返せないから仕方ないが。

 ただでさえ背景がはっきりしない殺し屋ワールドのルールを前提にした物語なので、「え? なんで?」と思う部分は少なからずある。「こういうもんなので」と言われてしまえばそれまでなのだが、やはり今までがわかりやすいお話だっただけに、「今どうしてジョン・ウィックは戦っているのだろう」と疑問を抱くのは残念だった。

 特にハル・ベリーのパートは、戦闘の理由に釈然としないものを抱いた。そもそも彼女との繋がりも劇中では明かされず、怒りの理由も反射的なものなので共感しづらい。

 あと、本作では「偉い人」がたくさん出てくるのだが、偉い人がどれぐらい偉いのかが世界観を説明してくれないのでわからず、この人は殺してもいい人なのかダメな人なのか、よくわからないまま死んだり死ななかったり殺しちゃったりするので、その部分も混乱する。

 まあ、そもそも説明する気がないからだとは思うが。何もわからず、この世界観に溺れるだけで満足すべき映画なのだろう。

 それと、例の登場人物についてだが、どうして日本人を配役できなかったのだろう(笑)。 あの人は「日本文化に憧れているアジアのどこかの国の人」的な設定なのだろうか。だとしたらなかなか痛々しくて面白いが。

 この調子だと、劇中のモロッコとかの描写もこのレベルなのだろうとは思うが、せっかく多国籍感を出すのが昨今のムーブメントなのに、肝心の考証が不足していると失笑を買うだけである。勿体無くないか。次回作も見ますけども。

『記憶にございません!』★★★☆☆


映画『記憶にございません!』予告

 三谷幸喜作品は『古畑任三郎』や『王様のレストラン』の頃からのファン。映画も途中までは映画館に必ず観に行っていたが、『ステキな金縛り』がピンとこず、『清洲会議』はビデオで観て、『ギャラクシー街道』はまだ観てもいない。

 正直言えば、三谷幸喜氏は脚本家オンリーの作品の方が好きで、映画は初期の方が好き、という感じ。設定やシチュエーション、キャストは面白そうなのに、いざ観てみると「あれ?」という印象を受けてしまう。それでも毎回見てしまうのだけれど。

 

 今回も、設定はすごく面白そうだったので「今度こそ」と期待して観に行ったのだが、「あれ・・・?」という印象。

 詰まらなくはない。笑えるシーンもたくさんあったし、実際たくさん笑った。中井貴一草刈正雄の芝居はことさらに素晴らしい。笑ったのだが、なんだか、観たいものと描かれているものにズレがあって、終始その違和感が拭えなかった。自分なりに理由をいくつか考えた。

 

1 長回しが間を悪くしている

 舞台と同様の効果を生もうとしているのか、長回しでなければならないようなシーンでなくても、相当な長回しを多用している。ワンカットで描くべき緊張感があるシーンというのもあると思うのだが、必然性がないワンカットは、芝居にとても微妙な間を生む。

 筆者が、切り替えを多用するハリウッド映画のテンポに慣れすぎてしまっているので、この間に焦ったさを感じてしまうのかもしれない。

 

2 政治家の話だが政治批判には(なりそうで)ならない

 今回、割と踏み込んで政治を批判できそうなポイントがいくつもあり、実際、三谷作品では非常に珍しく、現在の政局に批判的な(とも取れそうな)セリフもちらほらあった。あったのだが、結局踏み込み切らないというか、「そうはいっても・・・」的に擁護に回ってしまう。

 必ずしも政治家を扱ったからと言って政治批判の話をしなければならないとは思わない。あくまで政治家一般の人間を描けば、現代日本の政治に一切触れない手もあったと思う。どちらかにきちんと振り切って欲しかったのだ。

 正直、三谷さんの作風的に、批判方向に行くのは難しいと思うので、だったらあくまで「記憶喪失の総理大臣」というシチュエーションに集中して欲しかったのだが・・・(我慢ならなかったのだろうか)。

 

3 生っぽさと作り物っぽさが混ざり合っている

 三谷映画はいい意味で作り物っぽく、建物の中から出ない、全てセット撮影、などの作り物感、ハリボテ感が良かったところもあったと思うのだが、今回は比較的ロケ撮影のシーンが多い。

 さらに、『有頂天ホテル』までとは違って、いくつかの場所を移り変わる一般的な映画の手法を取ろうとしているのだが、世界観やセリフ回しは相変わらず作り物っぽさが強いので、どうにもこのちぐはぐさがぬぐいきれなかった。

 新しい作風へと進んで行きたい気持ちはわかるのだが、いい意味での作り物っぽさを保ち続ける、ウェス・アンダーソンのような作風でも個性があっていいと思うのだが。特に、今回のような到底現実には起こりえないような題材を扱う場合はなおさら。

 

 他にも、笑いがその瞬間瞬間の細かいネタによる部分が多く、シチュエーションを積み上げたりフリを拾ったりするタイプのコメディ要素が物足りなく感じられた。

 また、今回キャラクターが記憶を失っているということもあってか、感情の導線にもどうにも乗り切れず、終盤の盛り上がりどころにもハマらなかったのは、自分だけなのだろうか。音楽の使い方も途切れ途切れで、山場に強い曲も流れず、不器用だったように感じる。

 

 自分が三谷作品と合わなくなってきている・・・のかもしれない。だが、アイディア自体はすごく面白くなりうるものだっただけに、個人的にはすごく残念だった。

 とはいえ、次も多分見に行くんだろうなあ・・・。

『スペシャルアクターズ』★★☆☆☆


映画『スペシャルアクターズ』予告 10月18日(金)全国公開

 

 以下、全てネタバレありで書きます。

 

 

 

 

 

 『カメラを止めるな』を公開1週間で観に行ったことをそれなりに自慢にしている人間として、やはり期待して観に行った。

 感想としては残念ながら、厳しいことを言わざるをえない。

 

 まず、根本のアイディアは非常に良いものだと思う。役者の力を使った何でも屋、というのはありそうで意外とないネタでもあるし、結構広げがいがあるからテレビシリーズになってもいいぐらいに感じる。

 登場人物の見せ方なども好感を持てる部分は多く、次第にじんわりと主人公のことが好きになってくる作りは愛着が持てる。

 

 だが、今回最大の難点になったのは、役者の演技力不足と感じられた。

 無名の役者を使うことと、演技力が足りていない役者を使うことはイコールではない。ちょっとした間に演技が挟まっていないので、絵が保っていないのだ。

 目の動き、表情、ただ歩いている時でも手足の動作、そうした部分にキャラクターの人柄を入れ込むことはできるはずで、そうしたふとした瞬間に「面白さ」が足りていないのは、これはキャストの力と言わざるをえない。今回の脚本のままであっても、演技力のあるキャストなら★3つくらいまでなら持ち込めたと思う。

 カメ止めでは演技力そのものは低くなかったということが一つ、また、脚本のトリッキーな構造上、演技力が不可欠だったパートが中間パートのみで尺が短く、許容できたということが相当助けになっていた。今回は冒頭から直球で芝居を見せ続けなければならなかったので、この不足は痛手になっていた。

 

 続いて足りていなかったのは純粋にアイディア。根幹となったネタは面白かったのだが、意外と小ネタが手薄で、プロットを構築するだけで手一杯だったように思える。

 例えばカメ止めでも、執拗に水の硬度を気にする演者、全然人の話を聞かないプロデューサー、無駄に業界人気取った関係者、などなど、全体の構造に関わってくるほどではないが小さな笑いが随所に仕込んであり、これでくすぐりを入れておくことで、物語の大オチまで引っ張っていられた。今回はこれが圧倒的に少ない。

 

 単純に仕掛けが複雑だったのもあってネタを入れる余地が少なかったのかもしれないが、例えば教祖、例えば事務所の役者メンバーのキャラ立てにだって、小道具や細かい動作をねじ込むことは可能だったはず。「ピリピリすると髪の毛を捻る癖がある」とかいう他愛もないネタでも、繰り返すうちに面白くはなってくるのだ。

 こういうことができなかったのは(勝手な推測だが)、やはり時間的な余裕が足りなかったのではないか、と感じる。多忙の中で脚本を書き、撮影を行うとなると、プロットの大枠は組めても「くだらない小ネタ」は意外と思いつかない。これは残念だった。

 

 また、単純に脚本としての詰めの甘さも気に掛かる。主人公のトラウマの元凶となった「父親からの叱責」も、そもそも「緊張過多になると気絶する」という癖も、ストーリーそのものにはほぼ絡んできていない=効いてきていない。どんでん返しは主人公のそうした性質と一切関係なく展開されているのは、拍子抜け感がある。

 それに、どんでん返しも悪くはないのだが、中〜小程度のひっくり返しが急にいくつも発生しているので、「え? ええと」と考えているうちに筋立てが次に進んでしまう。意外とトリックそのものは複雑なのだ。客をあっと言わせるのなら、ひっくり返しは1箇所にまとめてギリギリまで引っ張り、何が起きているのかはまとめて説明した方が良かった。

 

 例えば、「なんとか、盲信している宗教の教義を一つでも否定してやれば(例えば教祖は言葉を発さない、とか)、洗脳の第一段階は解けるのだが」という目標をストーリー上で設定して、でもそれを一旦目標から外し、「お化けで怖がらせて旅館を諦めさせる」作戦を進め、しかしあたかもその作戦が本気で失敗したかのように見せかけつつ、最終的に教祖に叫ばせた段階で全ての種明かし、という構造にすれば、どんでん返しは一回でも成り立つ。そのほうがカタルシスは強いと思う。

 

 また、ラストの大オチについては人によって好き嫌いが分かれるだろうが、筆者としては、主人公に真実を伝える必要はなかったのではないか、と感じる。それをやってしまうと、作品を通してやってきたこと全てがなかったことになってしまうどんでん返しだからだ。

 やるのであれば、主人公の全く気づいていないところで、主人公の弟が仲間たちと真実を嬉しそうに語らっている、という形でも十分に成り立つ。そもそも、あんなあっさり主人公にネタがばれてしまうような状況で、スペシャルアクターズは作戦を進行していたというのは、彼らの能力そのものに疑いを抱かせかねない。

 

 作品そのものは嫌いではなかった。愛着を持てるところも多かったし、何度でもいうがアイディアそのものは良かった。上田監督の評価がすごく下がるような類の食い足りなさではない。次作もきっと見に行くだろう。

 ただ、これからは『カメ止め』で奇跡的に成り立っていた部分をテクニックで成り立たせなければならないのだから、忙しくなりすぎて肝心の作品の練りこみが足りなくなるようなことがないよう、貴重な作品を作り込んで欲しい、と切に思う。日本映画界にとても貴重なタイプの監督であることに変わりはないのだから。

『ネットワーク』★★★★☆

 

  ジョーカー元ネタシリーズ(監督が影響を受けたとインタビューで言及していた作品)として鑑賞。

 物語は、長年続けてきた報道番組のキャスターが番組降板直前にストレスのあまり、「来週番組で自殺します」と宣言してしまうところから始まる大混乱を描く、テレビ番組制作の戯画。エンタテインメント業界の愚かしさをこれでもかとネタにしている。

 

 壮絶なのはこのキャスター役のピーター・フィンチ。どんどん正気を失い、大衆に祭り上げられていく壮年男性を凄まじい演技で演じきって、死後にアカデミー主演男優賞を受賞している。彼の芝居を見るだけでも価値のある作品。

 当人に全くその気がないのに崇め奉られる人、というところ、完全にジョーカーと一致している。

 また、テレビ業界人が「視聴率」という本末転倒甚だしい数字のために恥も外聞もなく奔走する姿も完全に狂気の沙汰として描いており、登場するキャラクターたちは誰も彼も実在しそうなラインで笑える。

 

 ストーリーもギリギリありえそうなところを狙いつつ、不意に一線を飛び越えて幻想の世界で終焉を迎えたりと、鑑賞側をグラグラ揺さぶってくる作りは『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』同様。

 ただ、1点非常に残念だったのは、古い映画特有の中途半端な恋愛要素を、それも妙に肯定的に織り込んでいる(マスコミを嗤うネタとしてではなく)というところで、時代的問題もあるとはいえなんとかできなかったのか。ということで★1つ減点。でも名作ですよ。

『アス』★★★★☆


US Super Bowl Trailer (2019) Horror Movie HD

 なぜか日本版の予告が出てこない。

 『ゲット・アウト』が面白かったのと、監督の映像美が好みだったので鑑賞。期待通り面白く、2作目ということで1作目よりさらに遠くまで歩みだした物語になっていて、好みだった。

 

 1作目から感じていたが、この監督、コメディとホラーの合間を行ったり来たりする感覚がとても独特で、一方的に怖がらせ続ける作品よりも物語に厚みを持たせられていると感じる。

 日常と非日常の落差で感情を揺さぶる、という点でホラーとコメディは同様のテクニックを使っており、そのバランス感覚にも非常にセンスがいる点でも似ているので、ホラーとコメディどちらもこなせる人、というのは、映画監督、俳優、漫画家でもしばしばいるのだ。

 

 映画館に行くまでは、「家にやってきた『自分たち』との恐怖の戦い」を描く、自宅監禁系のホラーだと思い込んでいたが、いい意味で綺麗に裏切られた。主役のルピタ・ニョンゴ、またその夫役の演技が本当に秀逸。というか、メインの家族の芝居がいろんな意味ですごい。しかも終始、どこかコミカルさも湛えている。

 物語にどんな意味があるか、一体何が起きているのか、その寓意含意は1作目同様、様々な取り方があるだろう。皮肉な意味合いも大量に込められていることが、アメリカ社会の事情に通じていない自分でも想像できる。

 しかし何より本作が面白かったのは、娯楽映画の枠を飛び越えて、アート系映画のようにただ、美しい映像を追求する下りが存在したところだった。気持ちよく、おいていかれている感覚。かつて、ピンク映画という枠組みの中なら何をやっても許された時代が日本にあったと聞くが、今はホラーという枠組みなら、これだけ実験的なことをやっても許容されるのか、と興味深く感じる。

 

 ちなみに、ラストのあの展開については筆者は見ている途中で感づいていたが、個人的には劇中に明示しないほうがかっこいいのではないか、と感じた。わかる人だけわかる、というのでも十分成り立っていたと思うのだが。

 しかし、あそこまできちんと描いたから、エンタテインメントの枠内にギリギリ収まっていたのかもしれない。ラストにカタルシスがあったから、なんとか満足してもらえる、という方法でお客を納得させるのも、手の内だろう。

 ともあれ、監督の手腕は一発屋のそれではなかったようで、安心。今後もジョーダン・ピール作品はおい続けていきたい。