『アトミック・ブロンド』★★☆☆☆
シャーリーズ・セロンの姿の魅力に惹かれて観に行ったものの、消化不良感が残った。アクションシーンは文句なく素晴らしい。セロン演じる主人公はとんでもないアクションを生身で連打するし、それをワンカットで延々やり続ける。上手く撮影上のトリックを使ってスタントと入れ替えているらしいところはちょっとあったものの、壁にぶつかり机に叩き付けられているのも俳優そのまま、見ていて冷や汗が出るくらいだった。これだけ演技力も高いのにここまでアクションに打ち込むというのは並大抵でないこだわりがあるのだろうと思う。
しかし、シナリオはいただけない部分が多い。まず設定があまりに複雑・・・・というか、東西冷戦時代の対立構造が同時代的に頭に入っていない世代の筆者としては、誰がどこのスパイで・・・・というのを考えるのもかなり頑張らなければならなかった。いろいろと仕掛けは施してあるプロットなのだが、状況を満足に理解する前に意外性を投げつけてくるものだから、「えーっと、このシーンではこの人とこの人が味方だから・・・・?」的な疑問が頭に多数浮かぶ。
そもそも、主人公(&敵キャラたち)の行動目的が今ひとつ頭に入りにくいのも気になる。スパイの話は人間関係が複雑になるので、覚えるべき人物と覚えなくてもいい人物を整理した上で、話の中でも一度状況を整理するくだりを挿入するか、もしくは理解しなくても楽しめる娯楽作品に振り切るか(『ミッション・インポッシブル』みたく)の判断が必要だと思うのだが、基本話が走り続けているので一度置いていかれると果てしなく追いつけなくなってしまうのだ。
そういう細かい問題点も『スカイフォール』あたりのようにセリフにキレがあればなんとなく楽しめるのだが、本作は特に前半、あんまりセリフの魅力も感じられず。こればっかりはセンスの問題だし、さらに80年代後半の文化をフィーチャーしているので、「意図的にちょい古くさくしている」というシーンも結構あって、「これは狙いなのか? それとも滑っているのか・・・・?」と悩むこともしばしば。
猛烈なアクションが始まってからは飽きることなく最後まで観れたのだが、前半のダレがどうしても気になってしまった。シャーリーズ・セロンのファンは間違いなく楽しめるかと。