『ゴッホ~最期の手紙~』★★☆☆☆
上映会へ行ったらなぜか吹き替えの山田孝之さんの舞台挨拶にかち合うというミラクルがあった。全然知らずに行ったのでビックリ。テレビなどで観るとおりの人だった。
さて、映画についてだけれど、残念ながら期待よりはかなり今ひとつな印象だった。ストーリー自体が「いろんな人に話を聞きながら事実を確認していく」という、『羅生門』に近いもので、「すでにいなくなった人物について人々が語り合う」という意味だと『桐島、部活やめるってよ』に近い内容だったけれど、それを描き出すことで何をやろうとしているのか(ゴッホの人柄に迫ろうとしていたのか、ゴッホを愛することが出来なかった当時の人々の愚かしさを見せようとしていたのか)が曖昧だったため、ストーリー全体の狙いがぼやけてしまった。
しかも、全体がサスペンスの形式になっているのに、肝心のゴッホの死の謎が明瞭には解き明かされない(と思ったのだが……私が読み取れなかっただけだろうか)。もちろん、「実は殺人だった」レベルの意外性のある解決があるわけではなく、かといってゴッホの自殺に意外性のある答えが示されるわけでもない。「こういうことかもね」ぐらいのことが匂わされて終わり。
歴史上の事実に意外性のある可能性を提示する、という作品は、いわゆる歴史ミステリーのジャンルではしばしばあると思うのだが、せめてそうした作品では、証拠はなくても「これが新説だ!」と胸を張って提示するぐらいの自信は持って欲しい。こうも考えられますよね、程度のことなら90分も尺を使って描くほどのことではない。騙すなら騙すできっちりやりきってほしいのだ。
そして本作最大の売り、「全編油絵で作ったアニメーション」という部分なのだが……これも結構微妙。『かぐや姫の物語』は全編水墨画の趣をたたえていたが、あれは全て「絵」だった。本作は、実際に撮影した実写映像を元に絵を描くロトスコープであり、しかもタッチはゴッホ(正確にはゴッホよりも写実的)なので、ぶっちゃけ実写とほぼ変わりがない。絵であるうまみがほとんどない。
せっかく絵で描いているんだからデフォルメや、実写では出来ないことを見せてもらいたいのだが、結局画角も現実のカメラで出来る範囲でしかなく、イマジネーションがほとばしる思いも寄らない心理描写を組み込んでいるわけでもない。本当に、「油絵で描いた」以上の効果が見込めていない。これはあまりにもったいない。これはことに人物画についてそうだった。背景は、ゴッホのタッチを丁寧に取り込みながら、それがぐりぐり動いていくことに魅力があった。
もしこれが実写映画だったら★一つ。絵を頑張ったので★二つ、といった印象。