『アメリカン・ビューティー』★★★★☆
ケヴィン・スペイシー主演ということでもしかしたら封印されるんじゃないか、というあらぬ心配から観てみた(さすがにそんなことはないと思うが)。サム・メンデス監督ということで期待はしていたが、想像以上の佳品。
事前のあらすじなどで想像していたのとは大幅に内容が異なっていた。娘の美貌の友だちに恋する中年男、という風に語られていたが、実のところその要素はとっかかりに過ぎない。崩壊寸前だった二つの家族が崩壊する、きっかけがそこにあったというだけだろう。
表だってはならない繋がりを持ち始める人々、前の時代の残滓のような人々、そもそも居場所のない人々。立派な人間、父、母、子はかくあるべし、という規範が成り立たなくなったとき、言ってはならないはずだったことを言ってしまったとき、全ては崩壊し始める。純粋に主人公に感情移入して観るサスペンスとしてもおもしろいし、ひとりひとりの人物にきちんと独自の視点が設定されているから、それぞれに入り込んでみてもまた興味深い。手抜きの登場人物が一人もいないのだ。繰り返し見返せる内容。
痛々しい中年男を笑う系だと個人的に苦手なので途中までどきどきしながら観ていたのだが、最終的には違う方向だった。また見返せば印象が変わるかもしれない。音楽も出色の出来。ひさびさにサントラを買った。