週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ジャコメッティ 最後の肖像』★★★★☆


『ジャコメッティ 最後の肖像』予告編

 去年の夏頃にやっていた「ジャコメッティ展」を観に行ったのがきっかけで知った作品。監督は『プラダを着た悪魔』でスキンヘッドのデザイナー(?)役をやっていたスタンリー・トゥッチ。個人的には『名探偵モンク』のエイドリアン・モンク役のトニー・シャルーブが出ていたので大喜び。主演のジェフリー・ラッシュは本物のジャコメッティに激似で、素晴らしい演技を見せる。

 内容としては実はコメディに近いと感じた。「すぐに完成するから、と言い続けていつまでも絵を完成させられない画家」という繰り返し。笑えるポイントも多いし、劇場も何度か笑い声が上がっていた。ジャコメッティの弟も余裕で兄をフォローしていてほほえましい。

 一方で、やっていることや起きていることは深刻だったりする。ジャコメッティが作品を完成させられず、主人公はいつまで経っても帰国出来ず、ジャコメッティ自身の家庭は完全に崩壊している。愛人と遊び歩き、金銭感覚は全くなく、筆を重ねても絵に満足は出来ない。コメディ的な演出によって、この破滅的な人生も重すぎず観ることができる。

 何より、ほとんどストーリーが存在しない、という問題がある。起承転結はない。ただただ繰り返し、繰り返し続けて、突然ふっと終わる。なんの結論も出ない。終わった理由も単に、「ここらで終わりましょう」とジャコメッティに(ある意味で)提案したことがきっかけに過ぎない。いわゆる映画的なエンディングは全く存在しない。後日談がナレーションで簡単に語られておしまいである。カメラの使い方も終始手ぶれが多いドキュメンタリー風のもので、それもまたこの作品の「生っぽさ」に拍車を掛けている。

 つまるところ、この作品はジャコメッティの人生のある短い期間をただ描くことを狙っているのであって、当然それにお話らしいオチなど付かないのが正解なのだろう。擬似的にでもオチを作ろうとすれば途端に作為が、作り手の意志が出てしまう。

 そしてまたその「ふっと消えるように終わる」感覚は、ジャコメッティ自身が直面している創作上の困難と、それに対する彼の対処に近いのかも知れない。彼の作品は劇中いつまで経っても完成しないが、完成しないこと、完成させないこと、繰り返し続け終わらせないこと、「絶望し続けること」そのものが大切なのだ。だから逆に言えば、いつ終わったって構わないし、終わった時点で完成と見なされる。この映画自体も、そのような仕組みになっているように感じた。

 他人に勧めづらいが、ある奥行きのある時間を味わえるという意味で魅力的な作品。