『シェイプ・オブ・ウォーター』★★★★☆
大期待のデル・トロ監督作品。期待通り大変よい映画で、監督のアブノーマル趣味がぎりぎりのところで一般にも受け入れられるラインで仕上げられている佳作。事前に聞いていたとおり素人目にも、ハリウッド映画としてかなり低予算で作られていることがわかったが、不足は全くなかった。
まず、ヒロイン役のサリー・ホーキンスがとても魅力的。劇中でも言われるように決して典型的な美人顔ではないのだけれど、性格がよくて身近にいたらどきっとするだろうな、という絶妙なラインの顔立ちで、なるほど「彼女しか想定出来なかった」と監督が言うだけのことはあると思う。ほぼ全くセリフのない難役なのに、観ているだけで彼女のことが好きになってくる。
相手役の「謎の怪物」も、不快感は感じさせないがほどよくグロい、いい感じのデザイン。昔の日本の特撮のように完全スーツで撮影しているので、研究所のセットの雰囲気も手伝って時々仮面ライダーとかウルトラマンを思い出すが、わざとだろう。
かなり攻め込んだ性描写もたくさん登場する。これがなければ全年齢にも見せられただろうし、なくしても作品として成立させることは可能だったろうと思うのだが、ヒロインの性的欲求から怪物との関係まであえて描いているのは、必要に迫られてだろう。ヒロインも怪物も言葉を持たないキャラクターなので、本当に互いに求め合っている、ということを表現するには(ヒロインの一方的な思い込みではないと証明するためには)、お互い欲求がかみ合い、きちんと結びついているのだ(犬や猫を助けるのとはワケが違うのだ)と描かなければならなかったからだろうか。後もちろん、監督がそういうのが好きだからやったのだと思うけれど。
正直に言うと、もう一歩二歩、主題について深めることは出来なかったろうか、と感じる部分もある。作品全体で、明快な主題(人生上の具体的な悩みとか問題とか苦しみとか)を提示しているわけでは実はないので、この物語を通してどんな問題が描かれ、どんな結論が得られたか、というような「答え」は示されない。それはヒロインが発話障害を持つからでもあるだろう(ヒロイン自身の声で主題を語ることが出来ない)。さらに、各登場人物もかなり目先のことを悩んでいて、中長期的な大きな問題について考えている人は出てこない。
ただ、それでもいいのだろう。これは「おとぎ話」なのだ。『美女と野獣』だし、『キング・コング』だし、『ET』でもある。『のび太の恐竜』かも知れないし、平成ゴジラシリーズにも近い要素はある(つまり盗作云々の主張は無意味ということ)。意味は各自が読み取ればよいし、意味なんてなくてもいい。あるがままに受け止めて、物語の全てを胸の内に仕舞っておくだけでいい。映像美、セットの見事さ、脚本の端正さ、演技の誠実さ、演出の的確さ、どこをとっても見事な、ちょっと小さめの佳作。
一箇所、どうしてヒロインがそこまで怪物に興味を持つようになったのかだけがよくわからなくて引っかかったのだが、知人から「人間同士の恋愛ものだってそんなもんでしょ。恋は唐突ですよ」と言われて、確かに、と思った(笑)。
とてもいい作品で、観ている間気持ちよかった、と記憶に残る。アカデミー賞でそんな苛烈な争いを演じるようなタイプの作品だろうか、と正直大げさに取り上げすぎではないかと疑問を感じたが、個人的には好きな作品だった。
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これは完全に拡大解釈‥‥というか、知り合いから聞いた解釈が、引っかかっていた全ての疑問点を解消してくれたので、メモ書きとして追記。
ヒロインは、人魚だったのだ。
そう捉えることができないだろうか、と聞かされて、この上なく納得した。
そう考えると、「?」と思った描写の全てが納得できたのだ。はっきりした理由もなく声を発することができないのも、エラにしか見えないノドの傷も、「水辺で拾われた孤児」という設定も、やけに靴にこだわりを持っている描写も、唐突に挿入される歌のシーンも(人魚は歌声が美しい)。
あの奇妙なOPも、あれは水の中で暮らしていたころの記憶なのだ、きっと。
それなら、エンディングの後、ヒロインはきっと人魚に戻って、いつまでも幸せに暮らしたのだろう。この話は、「逆・美女と野獣」だったのだ。王子様が迎えに来てくれた物語なのだ。
人間こそが野獣。モンスターのほうが、美しい。