週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』★★★☆☆


主演ゲイリー・オールドマン、驚くべき変貌ぶり/映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』特報


『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』30秒予告編

 

 ゲイリー・オールドマンが好きなのでかなり以前から気になっていた映画。圧倒的な変貌ぶりが話題を呼んだが、映画の内容も重厚。しかし、イギリスの歴史に詳しくない人間からすると、どう受け止めたらいいのかわからないところも多かった。

 

 見所はやはりチャーチルになりきったゲイリー・オールドマンの演技。外見もそうだが、しゃべり方から振る舞いから、偏屈で天才肌で横暴だが少し寂しい老人の政治家、になりきっていた。声や発音も完璧に変えていて、元々こういう姿の俳優がいるとしか思えないほど。「どうしてここまで変えなければならないのに彼に依頼したのだろう」と少し不思議だったのだが、映画を観てみて、特殊メイクのみならず、演技力も伴わなければ不可能な役だったことは明らかだった。

 時代の雰囲気を反映した重い映像作り、細部まで手の込んだセット、小道具類(議会と宮殿が特に素晴らしい)、画面の見応えも抜群。歴史映画として相当よく出来ている作品だと感じた。

 

 ただ、この作品を通して描きたかったことは端的に言って何なのか・・・・という点は、特にイギリス人ではない人間からすると読み取りづらかった。チャーチルに思い入れもなく、歴史的事実についても造詣が深くない人間としては、一人間としてのチャーチルをどのように描くのか、という部分に興味が行くのだが、では一本軸を考えたとき、チャーチルのどんな部分を描こうとしているのか、とまとめようとしてもまとめきれない。骨太なコンセプトが見えてこない。

 

 偏屈で横暴な人間だったチャーチルが、改めて国民の言葉に耳を傾け、英国を妥協なき正しき道へと導いていく物語・・・・とでも捉えればよいのだろうか。クリスマスキャロルじゃないんだから、そんな簡単な枠組みに当て込む必要はあるまい。おそらく、チャーチルを感情移入の対象と捉えればいいのか、それとも一種の「怪物」として捉えればいいのかが、場面によってまちまちになっているのがこの引っかかりの原因なのだと思う。

 

 一般人が感情移入するために用意されたと思われるタイピストの女性のキャラクターがいるのだが、彼女もそれほど人物像が書き込まれるわけではない。たとえば『ヒトラー/最後の12日間』にも同様のキャラがヒトラーの側に置かれるが、この人物は史実に存在する人間だし、人物像も掘り下げられる。チャーチルという人物を浮かび上がらせるためには、対照的な一般人のキャラクターもきちんと描かれるべきだったと思うのだが、本作ではこの人物は限りなく置物に近い。

 

 かといって、チャーチルも多くのシーンで、独特の行動原理を持つ強烈な人物として描かれている。後半では人間味を帯びてくるのだが、多くのシーンでは「恐ろしい人物」としか思えず、彼が何を考えているのか気になるが、一般人が感情移入は難しい。

 

 いっそのこと「怪物」として描ききってしまったほうが、ジョージ6世が漏らした「ヒトラーに対抗出来る唯一の人物」としての価値を描き出せたのではないかな・・・・という気がしないでもないが、でも、総合的に言うと作り込まれたいい映画でした。