『エイリアン【ディレクターズ・カット版】』★★★★★
実は観ていなかった名作の一つ。いいに決まっているとわかっていながらも、生来の恐がりがたたって今まで観られなかった。珍しく昼間に時間が空いたので、この時間なら大丈夫かな、と見始めた。
期待通り怖い(笑)。ホラー好きからすると最早大したことない演出なのだろうが、とにかく起きたらイヤだな、と感じる出来事が続々と発生し、しかも一本調子ではない(同じことの繰り返しになっていない)ところがまた怖い。
この手のモンスター映画では、相手が化け物であるがゆえにビックリさせることに注力してしまい、驚きはするけど怖くはない、という風になりかねないのだが、本作ではいろんなバリエーションのモンスターを出すことと、相手の正体が全くわからないこと(イヤな想像だけできる漠然としたものだけ遺されている)、さらに味方であるはずの存在までもが自分たちを死に追いやろうとしていたとわかる、という何重にもイヤな事態が、飽きさせず緊張感を保たせている。
幽霊もそうだが、最も怖いものとは「よくわからないもの」なのだろう。
また、背景美術(大道具?)の秀逸さも魅力的だった。宇宙船内というのはちょっとしくじると途方もなくダサい空間になりかねないのだが、本作の宇宙船は貨物船ということもあってか、ほとんど工場のような様相。薄暗い工場内での恐怖を充分に煽っている。なんだかよくわからないけれどどこもかしこもしっとりしているのは、やはり宇宙船を「子宮」の暗喩として描いているからなのか。
主人公・リプリーが襲われるシーンで、背景にポルノ写真が貼られ、口に丸めた雑誌を突っ込まれるのは明瞭すぎるほどの暗示。エイリアン自体が性器をモデルにデザインされているのは以前から聞いていたが、宇宙船内での男性と女性の力関係、判断の下し方も、執拗なまでに一方的に、暴力的に描写されていた。生と死がどのシーンでも対照的に示され続けている。
てっきりもっと身も蓋もなくビックリさせてくる映画なのかと思っていたが、実際にはきちんとフリを作った上でじわりじわりと忍び寄ってくる恐怖を見せてくれる作品だった。
ところで、筆者は「ミステリーやホラー映画で大ピンチなのに犬や猫を連れて行くことを優先しようとする登場人物」が大嫌いなのだが……世間的にはどうなのだろう。正直、それはもう諦めて自分の命を優先しようよ、と思ってしまうのだが。大体この手のキャラが意地を張るせいで数人死んでしまうのだ。
さて、凄く綺麗に終わっている映画だと思うのだが、一体この後どうやって6本も作ったのだろう(笑)。