週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ハドソン川の奇跡』★★★★☆

 

  イーストウッドの映画はあまり観ておらず、『アメリカン・スナイパー』と『許されざる者』ぐらいだと思う。

 期待値は高く、それに答える内容・・・・だったが、途中で首を傾げる展開に。でも全体としては好きな作品。

 

 実際に発生した事件について描く作品だが、前半部分はさすがの巧みさで、二項対立の構図を明確に示す。「現場の経験」対「機械による計算」。まるでロッキーのようなシンプルな対立だが、繰り返し繰り返し、機長自身の己に対する不安、不信を描写することで、どこかに危険を感じさせ、緊張感を保ち続けることに成功している。

 実際に起きた事件の様子を詳細に描き、CGで再現し、切迫した演技で見せ、観客に緊張を強いる。そこに常に発生しているのは疑いである。この主人公は本当に信用していい人物なのか。この事件は本当に英雄譚なのか。主人公の家庭環境もちらりと見せることで、その疑念はゆっくりと大きくなっていく。

 主人公である機長以外の人物はほとんど描かれない。原題は『Sully』、機長の名前である。事件そのものではなく、この作品は「機長」を描くものなのだ。

 

 ところが、終盤、事件について行われる公聴会が始まった途端、この緊張感は霧散する。詰まるところ機長のやったことは正しく、人間による経験は正しい、素晴らしい、という結論が、巨大なポスターのように貼り出される。そして突然の人間賛歌になり、物語は終わる。

 美しい映像と巧みなカット割りで飽きないのだが、よく考えてみると前半で張られた伏線(らしきもの)が何一つ回収されないまま、やっぱり機長が正しかったね、と言って終わる。役所の人間のシミュレーションのお粗末さに至っては苦笑ものである。そんなもの、機長に指摘されなくても気づくべきだろう。当たり前のことを指摘されて、間違ってました、と言って終わったのだ。最後には異様なまでに現実とNYを肯定して終わる。

 

 実話を題材にした映画は、現実からいかに一般化された哲学・倫理・思想を導き出せるかに掛かっている。その点、『アメリカン・スナイパー』は圧倒的だった。あれほどのものを撮るイーストウッドが、こんな呆気ない作品を作るのか・・・・?と正直疑問は残る。

 NYと飛行機の墜落、というポイントから、導き出すべき読解はあるだろう。ただ、この対比から考えてみても、機長=英雄の抱いた自分自身への不信、という前半の主題を納得させうるほどの作品の意味を見いだすことは今のところ出来ない。アメリカ万歳、NY万歳、サリー機長万歳、で終わっていい・・・・とは思えない。

 引っかかること多数だが、全体としてはよく出来た佳作。