『キッズ・リターン』★★★★☆
マジメな映画が観たくて借りてきた一作。マジメというのとはちょっと違う内容だったが、それよりも個人的には観るのが辛くて仕方がなかった。
バカが苦手だ。バカといってもこの場合は、若気の至りで愚かな選択をしてしまう人間、というぐらいのつもり。怒りにまかせて失敗をしてしまう人がお話に出てくると、思わずヴィデオを止めてしまうことが多い。だもんでこの映画、観ている間中大変だった。
とにかく、これはバカについての映画なのだ。出てくる奴出てくる奴どいつもこいつもみんな「バカ」ばかり。もちろん主人公二人も、なんでそんなことするの、と思わずにはいられない行動ばかり取る。
おかげで1時間以上観ている時間は長かったと思う。いちいちヴィデオを止めてしまうからだ。もやもや終始しっぱなし。辛いというのはそういう意味合いでだった。
バカをやってしっぺ返しを食らう、の繰り返し。高校時代から、働き始めるまでの物語だが、次第にその失策は大きくなっていく。端から見ると「なんでそんなもの信じるの」と言いたくなるような人間に振り回されて、少年たちはダメになっていく。ありとあらゆる、若気の至りの連発で、まるでカタログを作ろうとしているかのようだった。
青春映画であり、人はほとんど死なない。なので他のたけし映画と印象は少し異なる。けれど、観ている人間の胸に突き刺さるシーンが詰め込まれている。自分にも身に覚えがあるし、周囲で見かけたことなんか数え切れないほどある。くだらないことに必至になり、怒りを覚え、衝動で動いてしまい、痛い目に遭う。
北野武は「ばかやろー」とよく言い、普段からバカを観察することに長けている。そして、作品作りに際して一切の遠慮がない。なので容赦なく愚か者を作品に出すことが出来る。頭のいい人と違い、愚か者は行動を説得力ある形で描くのが難しいのだ。だって、合理的論理的には動かないから。
主人公二人は「偉い人につきあわず」「自分のやりたいようにやり」そして失敗する。成功らしきものを収めているのは、漫才コンビの二人くらいである。彼らは結局、自分たちのやりたいことが初めからあって、それを手放さなかった(あるいは彼らもバカだっただけかも知れないが)。
けれど、主人公たちに「やりたいこと」や「夢」は何もないのだ。だから成り行きで危険で無鉄砲な行動に出るし、何もかもを失っても懲りない。笑っている。
伝えたいメッセージは、「バカは死ななきゃ治らない」だろうか。