週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ファントム・スレッド』★★★★☆

 


「ファントム・スレッド」予告編

 気になってはいたものの、長らく観ていなかった作品。ようやく鑑賞。冒頭しばらく眠気に襲われたのだが、最後まで観るとずっしり胸に来る佳作。

 

 狂気の如く仕事に打ち込むファッションデザイナーと、あくまでモデルとして連れてこられた女性の、観たこともない形の愛の物語だろう。主人公はアスペルガー的に描かれるファッション業界での成功者で、王族からウェディングドレスのデザインを頼まれるほどの実力者。対して、ヒロインは田舎のレストランでウェイトレスをしていた年若い女の子。

 

 最初に感じたのは、「もしも、『風立ちぬ』のヒロインが、自我と行動を持ち合わせていたら」という感想だった。『風立ちぬ』はヒロインがあまりに主人公を描くための道具として存在していることに違和感を覚えていたのだが、この作品ではヒロインは、物作りに生きる主人公の道具として飲み込まれ掛けたかと思えば、たちまちある手段で切り返すことで、主導権を握ることに成功する。

 主人公と価値観が共通していることを確認したらすぐに、主人公に近づく他の女性に嫉妬し、主人公を自分なりの形で変えようと動き始める。しかしことごとく失敗。結局取れた有効な手はたった一つ、それはおそらく、禁じられているべき手であった。

 

 あるレビューで、「この物語はミューズと、その反逆を描いたもの」と言っていて、非常に納得した。ミューズとは芸術家(男性)が側に置き、ほぼ観賞用の置物として所有して、不要になったら捨てられてしまうような存在の女性(だと筆者は勝手に理解している)。物語冒頭に登場する「先代」の女性のように、通常は邪魔になり始めると排除されてしまう。

 しかし本作のヒロインは、ミューズとして処理されることにあらがった。そして、あらがうことに奇跡的に成功したのだ。果たして物語の最後、芸術家は芸術家であり続けることが出来たのか。それとも、ミューズに負けたのか。ラストシーンに至っても、明示はされない。結果として表れる愛の姿は、この上なく恐ろしいものだと感じた。『ゴーン・ガール』に近い印象を覚えた。極限状態に置かれながら、それでも二人の間には愛があったのだ。

 

 随所に挿入される「母」のイメージは何を意味しているのだろう。主人公のマザコン的側面を強調しているのか、それともミューズは全て母の代替物だということなのか。いや、むしろミューズに、理想の母を追い求め続けていたということなのか。まだまだ読み取り切れていない気がする。

 登場する美しい衣服の数々は、まるでヴィスコンティの映画を観ているかのような満足感があった。目の保養にもなる、美しい作品。