週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『カメラを止めるな!』★★★★★


異色ゾンビ映画『カメラを止めるな!』が公開!満席に新鋭監督が感謝......

 人からの勧めで鑑賞。『万引き家族』とどっちにしようか迷って決めたが、いや、大成功。頭から終わりまで大満足の一作。さらに、なんと鑑賞後にキャストの挨拶にまで巡り会えたので本当にラッキーだった。

 ただ、この映画非常に紹介しづらい。何を言ってもネタバレにしかならない。言っても良さそうなのは「ゾンビ映画」ということぐらいだろうが、ホラーが苦手な人も全く心配する必要はない。むしろ真逆だ。「新世代の三谷幸喜」と監督を表している人もいるが、少し違うように思う。三谷さんのウェルメイドを目指す姿勢とは全く異なる、トリッキーな作家性だと思う。

 

 とにかく、言いたいのは「観に行って欲しい」というだけ。何も調べず、前情報など何もなく、とりあえず観に行って欲しい・・・・と言い過ぎるとハードルが上がりすぎるのかも知れない。正直、何も知らずに半分疑いながら観る、ぐらいが一番楽しいと思うんだよな・・・・。あいにく、監督はこれが初長編映画で、キャストに有名な方は1人もおらず、キャストの方ご自身も言っていたが「超低予算ゾンビ映画」である。そういうつもりで、気楽に観に行って欲しい。

 

「どれにしようかなー」と他の映画と迷うんだったら観に行ったほうがいい、といった感じ。友達や家族、恋人と観に来てもいい。気持ちよく映画館を後に出来るだろう。個人的にも、あそこまで映画館が沸いているのは生まれて初めてだった。ネタバレナシだと言えることはここまで。

 ちなみに自分は、家に帰ってきてから1本観ようと思ってDVDを借りてきていたのだが、観ないまま返却することになった。この作品の余韻をかき消したくなかったからだ。

 この下にはネタバレありの感想を書くので、見終わったらまた読んで欲しい。

 

 

 

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 ここからはネタバレあり。

 いや、腹の底から何度も何度も笑った(笑)(コメディである、と言及することすらネタバレになるのには困った)。傑作、と言っていいと思う。低予算であることを逆手に取り、「劇中でも低予算ゾンビ映画を撮っている」という設定の元、脚本の妙とキャストの芝居で面白さを最大化している。特に脚本が本当に素晴らしい。

 たぶん海外からもリメイクの引き合いが来ると思う。そのまんま英訳してもそのまんま映画に出来るくらい、普遍的なアイディアだけで構成されているからだ。ただその分、わざわざ撮り直す意味はほとんどないかも知れないが。金を掛けたらこの作品に籠もった熱が失われてしまうかも知れないから。

 

 どこも褒められる要素ばかりだが、まずこの構成。思いついても普通大変すぎてやらない。最初のワンカットゾンビ映画パートだけでも充分ネタとしては面白いのに、それだけに飽き足らずに二重構造にして、完璧に成り立たせているのだ。

 当然、ワンカットで三十分本当に回した最初のパートは、撮影するだけでも大変だし、しかもこの部分はきちんとゾンビものとしてなりたっている。ちゃんと緊張感のある「B級ゾンビ映画」になっているのだが、更に同時に、常に観客に「違和感」を植え付け続けている。

 この「違和感」の加減がとにかく絶妙なのだ。上手な伏線というのはある基準があって、「自分だけが気づいた!」と全員が思うようなものが一番よい。この相矛盾した伏線を、とにかく三十分間張り続けることに、成功しているのだ。

 

「なんだあれ?」「おかしいだろ」「今変なこと言ったぞ」「カメラワークに違和感」「動きがおかしい」、そんな部分が頻出するのだが、凄く些細なことでとどめているので「まあいいか」と次の展開に頭が奪われてしまう。

 ついついこういうのは、プロデューサーだなんだがもっとわかりやすく、広い客層を意識して、などと余計な口出しをして、結果として「バカでもわかる伏線」が大量に出てきた挙げ句、客が退屈するものなのだが(個人的イメージですが、これが下手くそな伏線)、この作品はそうではない。チラッと出てきて印象に残るカットが、全て意味を持っている。

 

 そして余りにも早いスタッフロールににやにやしていると、通常のドラマパートへ移行。ここへ来たとき最初は不安を覚えた。やろうとしていることはわかり始めたのだが、普通この中間パートに退屈するからだ。それまではワンカットという緊張感が画面に常に立ちこめていたが、その魔法がなくなると観ていられなくなる可能性もあった。実際、低予算映画なのは間違いないからだ。

 しかし、そこも丁寧な画面作りと実力派の役者たちによる安心感、そして何より、必要最小限に絞ったストーリー展開のおかげで飽きずに観られた。この映画、90分超しかない尺が魅力の一つなのだ。このものすごいテンポでとんでもない量のネタを消化しているので、頭はずっと回りっぱなし。

 さらに、最初のパートできちんとキャラたちのことを好きになっているので、この2番目のパートでも「ああ、あの人ホントはこんな人だったんだ!」と新鮮な気持ちで観られて嬉しい。

 

 主人公の映画監督の娘が青春映画的雰囲気を醸し出してくるので一瞬不安になったが(朝ドラ的熱血風味? まさかこの娘の映画への情熱を描き出すのではないか、と心配した)、そもそもこの映画は娘の熱血を描くためにあるのではなく、最終パートで娘が暴走する伏線でしかないのでこれもまた嫌みがない。さらりとやって終了。この映画はやはり最後まで、主人公である映画監督が情念を取り戻す、という愛と熱狂を(変則的な構成で)描くコメディなのだ。

 

 そして溜に溜めてラストの完全な伏線回収。ここをやるために全てが存在している。これはもう観た人間が共有している感興なのだが、一点、巧みだな、と思ったポイントがある。

 映画撮影の裏側を見せるラストパートで、一番最初に「主人公の映画監督、劇中劇でマジギレ」という、第1パートでは伏線だと誰も感じなかったところを回収して見せたところである。この強烈なインパクトのあるポイントで、客の共感と笑いを誘うことに完璧に成功したので、もうこの映画の仕掛けについて、観客が迷うことはない。その後は「全部このためのフリだったんだ!」と感心し、「次何が来る!」とワクワクしながら、映画の「裏側」を楽しむことが出来る。

 しかも最終的に、この短い尺(第1パートの30分は劇中劇なので、実質1時間)のドラマの中で、登場人物たちは変化と成長を遂げて、一皮も二皮もむけて行く。ラストシーンではとんでもない難行を乗り越えた後の爽快感を、登場人物たちと共に味わうことが出来る。

 

 最後に、この映画が本当に上手いのは、この構成によって、観客を「共犯者」にすることに成功していることだ。表面の映画を観て、裏側の葛藤を知った上で、撮影時の闘いを一緒に経験する、という経緯を通して、まるで自分も一緒にこの映画を撮ったかのように錯覚してしまう。「あーここで怒ってるんだね、わかるわかる」と思わせることが出来ているのだ。仲間意識、である。

 さらに、作品の仕組みとしてネタバレは絶対に避けなければならないので、面白さを人に勧めるときも「仲間意識」が芽生える。これが嬉しい。この辺は計算して作ったわけではないと思うけれど。

 

 凄く些細なことを言うなら、本当のスタッフロールで本当のワンカット撮影風景を見せるのは、ちょっと早いんじゃないかな・・・・とは感じた。もうちょっとこの作品世界で夢を見ていたかったのだ。でも、ホンの一瞬の隙を突いて水を飲んで休憩しているカメラさんの姿を見て(ワンカット撮影はこんなところにも気を遣わないといけないのか、と感心した)、純粋に、お疲れ様でした、という気持ちになった。

 制作に関わった全ての方に脱帽です。