週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ジャズ大名』★★★★☆

 

ジャズ大名 [DVD]

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  筒井康隆原作の短編小説を、名匠・岡本喜八が映画化。原作は既読で、筒井康隆しか描けない不条理と皮肉、ジャズへの愛を詰め込んだ濃厚な作品だった。そしてそれを正確に、かつコミカルに映像化することに成功している。

 

 冒頭はややだれ気味で、どう見てもアメリカではないロケ地で撮影した明らかに芝居が下手なジャズミュージシャンたちのコントを観ることになるが、ここもテンポのいい演出であっさり駆け抜ける。その間も延々鳴り続けるジャズ。思わず身体が動き出す、荒いながらも心地よい演奏。

 そしてやってくる日本のシーン。完全にコントになりきらないのは、主人公の大名役の古谷一行の芝居の巧みさだろう。昼行灯ながら切れ者、しかし真剣にはなりきらない趣味人というあたり、『パトレイバー』の後藤隊長的な魅力。右にも左にも乗り切らないのらりくらりとした態度の中にも「ええじゃないか踊り」が挟まり、幕末の異様かつ不穏な雰囲気が、小汚い城の中だけでも活写されている。

 

 ジャズミュージシャンたちがやってきてからは、地上の決死の闘いと大名そして地下のミュージシャンたちの愉快な演奏が対比して描かれ続ける。音楽が盛り上がれば盛り上がるほど、地上で騒ぎ立てている人間たちが小さく、愚かしく見えてくる。ええじゃないか踊りすら飲み込み、市井の人々も皆巻き込んで、邦楽の楽器すらジャズの一部に変えて、ただただ最後まで、ジャズの演奏は終わることがない。

 この斜に構えた姿勢、絶対にあり得ないはずなのに起きるんじゃないかと思わせてしまう筆力、笑いのベタさとそれをアキさせないテンポの良さは、完璧に筒井康隆の原作を再現しきっている。というより、筒井の作風をそのまま、映像にすることに成功している。空虚な争い事を笑い飛ばすジャズの旋律が、映画を見終えた今も頭から離れない。

 

 右につくか左につくか、戦うか逃げるか、それはどちらでもよい。いや、もう何もかもどっちでもいい。ただ演奏し、歌い、踊りながら、天井を勝手に通り過ぎる何もかもを観ず、知らずのまま、時は過ぎ、時代は変わり、それでも音楽は、人生は終わらない。陽気で悲しいメロディが、そんな思いを伝えてくる。「ええじゃないか」ほど投げやりですらない。きちんと音楽=日々は楽しみつつ、時間を忘れて踊り、狂っていく。これぐらいの気持ちで生きたいものだ、と今こそ思う。

 映画は終盤、完全に壊れる。物語の首尾一貫性などどこにもない。意味なんか何もない。もしかしたら、これを観て怒る人もいるかも知れない。「訳がわからん!」と。でも、それもまたジャズらしい。90分弱の尺の中に、ジャズと笑いを入れ込んだ快作。