週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ザ・ウォーク』★★★★★

 

  二日連続で大当たりに巡り会えるとご機嫌。

 お盆休みの勢いで映画を連続して視聴中。以前から気になっていたロバート・ゼメキス監督作品を観たが、いやあ、のっけの語り口からもうゼメキス節というか、期待以上の一品。題材が秀逸なのはもちろんだが、その調理が最高にいい。名匠による名作。

 

 すでに現代において、「2つのワールドトレードセンタービルの間にワイヤーを掛けて渡ってみせた、無謀かも知れないが勇敢な青年の物語」というのが、それそのもの以上の意味、寓話性を持ってしまっていることは明白だ。隠喩的意味合いを見いださずに読み解くことは出来ないし、許されない。

 本作は2015年公開だが、ハリウッド映画の規模からいって、2001年より前から企画があってもおかしくないし、そもそもこの「事件」があったのも、1974年のことだ。今こそ映像化したとき最大の効果が生まれる、という自覚があってのことだろう。9.11テロによって崩壊したビルが、CGによって復元され冒頭から映り続けることが、すでに単なる舞台ではない切実な想いを伝えてくる。

 そう、おそらくこの映画の主役は綱渡り師ではなく、WTCビルそのものなのだろう。ゼメキス監督なのか、それともプロデューサーなのかはわからないが、そのアプローチを思いついたとき、初めて一映画作品として成り立たせられると確信出来たに違いない。冒頭から最後まで、執拗なまでに映し出されている本来背景でしかないはずの二棟のビル。まるで大切な友人であるかのように、綱渡り師の主人公はビルを見据えながら物語を続ける。

 そして物語自体も、締めは主人公のことを描いているのではない。ビルのことを描いている。この物語は、WTCビルがNY市民に愛されるに至ったきっかけを描くものでもあった。何より、ラストシーンで主人公が手に入れる「プレゼント」は、今だからこそ意義を放つ。その頃は、永遠を信じられたのだ。

 

 もちろん、それだけに収まらない秀逸な作品である。まず青年の、生涯を掛けたプロジェクトを描いた成長物語であるし、仲間たちとの冒険も描いているし、なにより犯罪映画でもある。これもまた「ミッション・インポッシブル」なのだ。そして最後には未だかつてない緊張感で「挑戦」を描いてもいる。

 ただ綱を渡るだけと思うなかれ。ゼメキス監督は、ただただ人がワイヤーの上を歩くだけのシーンを、いつまでも見続けたくなるような美しく、意義深く、奥行きとサスペンス溢れるシークエンスに仕立て上げたのだ。高所恐怖症の人はしんどい部分はあると思うが、筆者も結構な恐がりなので、ちょっと我慢すれば耐えられるだろう。

 爽快感溢れる青春映画として出色の出来。CGの多用ぶりも、ゼメキス監督ならではの「おとぎ話性」によって全く気にならない。周囲がなんと言おうと、愚かと詰られ笑われようと、強い意志と勇気を持って前に進むこと。それは死へと歩み出しているのではなく「生きている」ということそのものなのだ、と胸に刻み込んでくれる傑作。