週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ナイトクローラー』★★★★☆

 

ナイトクローラー [Blu-ray]

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  ジェイク・ギレンホールを初めて観たのは、『ミッション:8ミニッツ』(★5つ、超傑作)だったと思う。異様な眼力と一度観たら忘れられない風体が魅力で、彼が出ているというだけで作品の格がひとつぐらいあがる。

 そんな彼がその異様さ全開でポスターを撮っている本作、ようやく鑑賞。ざっくりあらすじで筋立てを想像していたのだが、それを乗り越えてくる勧善懲悪を越えた現代的主題を扱う作品。

 

 見始めて最初に類似を感じたのは、『タクシードライバー』だった。

 

  「都会で孤立した社会不適合な青年が」「自己実現の可能性を求め放浪し」「車という個室に乗り続け」「イリーガルな領域に手を染める」というところまで一致している。特に、社会不適合、という意味では、本作『ナイトクローラー』の主人公は一貫して反社会性パーソナリティ障害の人物として描かれているように感じる(いわゆるサイコパスやソシオパス。筆者は専門家ではないので断言は出来ないけれど)。『タクシードライバー』の主人公はベトナム戦争帰還兵として様々な心の病を抱えていたが、他者の気持ちへの理解にズレがあるところは類似しているように感じた。

 しかしながら、本作では主人公は弱者ではない。というより、自分自身が弱者であることを否定し続け、誰が何と言おうと否定しきる結果、最終的に弱者ではない何者かになり遂げている。この違いが発生した理由の一点としては、主人公自身が語っているようにインターネットの存在があるだろう。

 

 昔と異なり、部屋で1人でネットをやっていれば情報をいくらでも集めることが出来る。それも、「いかにもそれっぽいビジネス用語」を使いこなせるようになるくらいは簡単だ。主人公自身語るように、地元に帰っても友達もおらず、家でもずっと1人、おそらく家族との交流も全くない人間であっても、少なくとも本人の意識の中では孤立してはいない(一方で彼が、自分の母親ほどの年齢の女性に熱烈にアタックするのは代償行為として面白かった)。

 主人公は、コミュニケーション術をマスターしきっているような気分で一方的に語り続けることが出来る。劇中で彼は自分自身の「交渉術」を得意げに吹聴するが、正確に言えば彼自身が劇中で通常の意味でのコミュニケーションを取っているシーンはただの一つも存在しない。自分の主張を押しつけているだけだ。

 

 しかしながら、それでも彼は最初から最後まで根拠のない自信に満ちた姿勢を崩さない。常に「何者かになれる」と確信を持っていて、たまさか上手くいった犯罪ニュース映像のパパラッチという「仕事」に才能があると思い込み、のめり込んでいく。

 彼の語る職業論はすべて、誰もがどこかで観たことがあるビジネス本や自己啓発書に載っている程度の、経験に則らない借り物である。だが、物語は最後に、それでも求められるのは「彼のような人物だ」というおそるべき結論へと辿り着く。すなわち、「中身なんてどうでもいい。何をやってもいい。客が喜ぶものが出せれば」ということ。

 

タクシードライバー』では大統領暗殺をやり遂げられなかった主人公が、たった1人の娼婦の少女を救うために命を賭ける。そして本作では、刺激的な映像を手に入れるために主人公は手段を選ばない。完全に同じとまでは言い切れないが、二人の主人公は非常に近い根っこを持つ者たち思えて仕方ない。たとえば『タクシードライバー』の主人公が、生中継カメラを持っていたらどうだったのだろう。YouTuberだったらどうなのだろう。決行出来たのだろうか。

 観客は、本作『ナイトクローラー』を観賞しながら、いつか主人公が否定されて欲しい、いつかしくじって欲しい、と願望を持ちながら見続けるだろう。しかしそれはやってこないのだ。失うものがないいわゆる「無敵の人」は、今も昔も最強である。失うものがないからそもそもしくじる日も来ない。反省したところで帰る場所もないから反省もしない。自分は正しい。何でも出来る。

 

 そしてそんな「無敵の人」が自己承認を求めたとき、どの方向へ向かうのか。人を殺して回るのか、創作活動に勤しむのか。かつてはそのどちらかだったが、本作の主人公はある意味で、その両方取りに成功した。それがこの、犯罪専門のパパラッチ、という形態なのだろう。主人公が否定されないのは簡単なことで、主人公のような「無敵の人」が求められているからに過ぎない。

 すなわち、信念とか意義とか関係なく、中身空っぽの口先だけ頭でっかち人間なのが明らかであってもいいから、「ウケるネタ」という必要とされているもの、客が喜ぶもの、客を気持ちよくしてくれるものを提供出来る人物。この点では『帰ってきたヒトラー』(これも余裕で★5つ、奇跡の傑作)も思い出させる。 

帰ってきたヒトラー [Blu-ray]

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 もはや善も悪もない。あるのはウケるか、ウケないかだけ。 

 

 正直、観賞前は「たぶん撮るネタがなくなるから自分で殺人を犯したりするんだろうなー」なんて頭の悪い予想をしていたが、そんなのはあっさり越えて深刻な現状を無駄なく映し出してくれた。佳作。