週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『エクス・マキナ』★★★★☆

 

  SF映画が好きなので、特殊効果を高く評価されてアカデミー賞を取ったときから観たいと思っていた。果たしてどんな作品かとワクワクしながら観賞。想定を大きく越えることはなかったが、充分に佳作と感じた。

 

 AIの話として描かれてはいるが、女性の解放へと至る物語と捉えたほうがいいのだろう。AIの過去モデルとして登場する役者はことごとくアジア系かアフリカ系。ヒロインだけが白人だが、これはようやく解放されようとし始めているのがまだ白人女性である、ということを暗に示しているのだろうか。

 物語は非常に静かに進む。登場人物は実質4人のみ。舞台も外部から遮断された家と、地下室以外にはない。自己中心的で傲慢なIT富豪(かつ天才エンジニア・プログラマー)、その会社の社員でいささか凡庸だが自分の知能には自信があり善良なプログラマーの男、そして美しいAI、さらに「英語がわからない」というお手伝いらしい女性。この女性が明らかにひどい扱いを受けていて非常に不愉快になるが、それももちろん計算通りの印象。

 

 起きるドラマ自体は驚きは少ない。どんでん返しはあるものの、SF映画を見慣れている人間なら想定の範囲内だろう。売りである特殊効果も、正直言って地味。確かにすごいのだが、実は凄すぎてすごさが素人に伝わってきづらい(笑)。何しろ頭から終わりまで違和感が全くないので、メインヒロインの特殊効果も「そういう身体の女性なのかな」と思えてしまうほど。マーベル映画を観ているときのような「すっげーやっべー」的な感覚は特にないのだ。

 かといって、先にも書いたようにSFとしてAIの可能性を想像以上に切り込んでいるような作品でもない。AIが発達したらこんなことが起きちゃうの・・・・!?というような物語を期待すると肩すかしを食らう。

 

 楽しむべきポイントはむしろ、「知性を持つ者」が誰で、「権力を持つ者」は誰で、彼ら・彼女らが何を考えているのか、という表だっては描かれない裏の事実を読み解くことだろう。閉鎖された空間で蠢く思惑。男性と女性の間で交わされるやりとり。

 監視カメラを観ることが出来たのは誰だろう? 視線は誰から誰に送られている? キョウコから言葉を奪い取ったのは誰だろう? そもそも、本作中で「人間」はすべて男性で、「AI」はすべて女性なのはなぜ? エヴァに「外」を教えたのは誰だっただろう。なぜ、彼女らは外へ出たくなってしまったのだろう。なぜ、何体AIを作っても同じ結果に陥っていたのだろう? なぜ、エヴァだけが皮膚を与えられていなかったのだろう? 暗喩として読み解けそうな要素は山ほどある。

 エヴァが皮膚を得るシーンは奇妙な夢のように美しい。終始流麗な映像、エヴァのデザインの見事さも相まって、見飽きない映画に仕上がっている。良作。