『夜明け告げるルーのうた』★★★★☆
伊勢湾台風以来の嵐が来るというので、という理由でもないが、なんとなくイメージが繋がって『ルー』を観賞。公開当時、いろんな人が褒めながらもなかなか興行収入的には苦戦していた印象。
観てみると想像通りの印象派、まさしくアニメーションといった感じの青春映画。鮮やかなイメージがあふれ出す「動く絵」の愉しさが全面から伝わってくる。
筋立てとしては、内気で沈みがちな少年が仲間に誘われ音楽を始めると、音楽好きな人魚の少女がやってきて、彼女と親しくなり・・・・といった感じ。まず最初に感じたのは、想像以上の『ポニョ』との類似性だった。
『ポニョ』は児童文学的な作品だが、本作はジュブナイル。海や波、水、魚や泳ぎを躍動感を込めて描くとこうなるのだろう。宮崎駿もかなり実験的な手法として制作した作品だった。本作の湯浅監督はそれをある種、更に押し進めて陰影無し、主線も状況に応じて省略、デッサンやパースの正確さよりもアニメーションとしての面白さを優先することで、制約のないアニメだからこそ作れる映画に仕立てている。
海や陽射し、生き物の姿、喜びや感動をそのまま絵にしたような、生命力の噴出する鮮やかな画面は、脳裏に焼き付くほどだ。
作中でワーグナーの『ワルキューレの騎行』を引用していたのは、第一には『地獄の黙示録』からだろうが、同時に『ポニョ』にも目配せしているのだろう(ポニョの本当の名前はブリュンヒルデ=ワルキューレ。『ポニョ』は『ニーベルングの指輪』を下敷きにした部分があり、劇伴でもワーグナーのパロディがある)。
また、ヒロインのルーがとにかくかわいい。表情豊かで感情をよく表し、歌も踊りも得意で無邪気に主人公を好いてくれる。彼女自身の思いはほとんど描かれないが、そこは本作の主眼ではないだろう。ルーのお父さんも、「ワン魚」も、出てきて動いているだけで愛したくなるくらいかわいいキャラクターたちである。一体次は何をやってくれるのか、彼女の動きばかりを見ていたくなる。
だが、唯一気になったのはシナリオ。はっきり言ってしまえば、ストーリーそのものは非常にありきたりな内容で、「人魚を観光資源にしようとする大人と子どもの対立」とか、「そんな中で無邪気なままの人魚に悲劇が」とか、「たった1人でそれに抵抗しようとする内気な主人公」とか、「身勝手で横暴で子どもの話を一切聞かない大人たち」とか、どこかで観たような要素ばかりが飛び出してくる。
言い換えれば「言葉で語られる」部分になると急激に魅力が失せるのだ。脚本は2人で執筆しているのでどちらに要因があるかはわからないが、映像で見せるパートは圧倒的な面白さに満ちており、さらに物語のテンポ(映像作品では非常に重要)もバッチリなだけに、セリフや説明、思索哲学の側面が深められていないのは非常に惜しい(逆に言えば、それらも完璧な宮崎駿がいかに化け物かということでもあるのだが)。おそらく湯浅監督は、完全に「絵の人」「感性の人」なのだろう。
映像の余りの素晴らしさが、そうした弱みを何もかも跳ね飛ばして★4つ。監督はまだ50代とのことなので、これからもっと深まりのある作品を作るか、あるいは重厚な原作を元に自由な映像を作り上げていって欲しい(『Devilman cry baby』は未見)。