『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』★☆☆☆☆
バブルへGO!! タイムマシンはドラム式 スタンダード・エディション [DVD]
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2007/08/17
- メディア: DVD
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脳が死ぬかと思った。
仕事の都合でバブルについて調べる必要があり、当時について描いている作品や書籍をいくつか見ているのだが、バブルで思い出した映画はこれだったのでとりあえず観賞(実際の当時の映像や雑誌なども調べております)。タイムトラベル物は最低限面白くはなるだろうと思っているのだが、しかしひどかった。ありとあらゆるところがひどい。
荒唐無稽なアイディアも全く構わないし、馬鹿馬鹿しいコメディも全然気にならない。だが、最低限娯楽作品として備えなければならない品質は考慮して欲しい。
素面で書いたとは思えない幼稚な脚本がとにかく苦痛。母親をタイムトラベルして探しに来たはずの主人公は、到着するやいなや一瞬で目的を忘れてバブルの遊びに邁進する。その場その場の思いつきで当時の流行を紹介したり、一方で過去に来ていることをあっという間に失念する主人公が現代(2007年当時)と取り違えてパニックを起こしたり、と人間とは思えない心理の一貫性の中が終始腹立たしい。
そもそも現代に帰れるかどうかもわからない(帰る方法を確認せずに過去に来ている)にもかかわらず、にやにやにやにや笑ってばかりの主人公はアホにしか見えず、感情移入など一秒たりとも出来ない。
また、その「当時の流行の紹介」も、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような気の利いたアイディアなどどこにもなく、単純に当時の著名人が登場したり、当時流行だったディスコに行ったり、と思いつきの範疇を出ない。思い出した順番に並べているとしか思えないくらい必然性もない。
当時の名物が出てきたら必ず説明セリフが登場し、それを棒読みで読み上げるための登場人物も現れる。いや、そればかりか主人公の置かれた状況や心情もセリフで説明される。今時漫画のセリフでもこんなにわかりやすくしたがる奴はいない。「コメディだからこんなもんでいいだろ」なんて思っているのなら張り倒したくなる。
とにかく制作サイドが広末涼子を撮りたい、という欲望だけは伝わってきて、唐突に腰を振りまくって踊ったり、出会ったばかりの男の家に泊まってシャワーを浴びてほぼ下着姿でごろごろしたり(緊張感ゼロ)、オッサンの夢は立派に詰め込まれていた。だが行動は観光地に来た女の子でしかない。これでは魅力を感じようがない。
阿部寛にここまで精彩がない姿を初めて見た。人物造形に何の奥行きもないからだろう。『トリック』のように大まじめにバカをやるならともかく、バカな状況でバカなことをやって笑いを取るにはテンポが不可欠で、この映画の編集にはテンポ感が完全に欠如しているので笑えるところはひとつもない。芝居で魅せているのは劇団ひとりただ1人という惨状。それも、ふだんの彼が出演しているバラエティ番組に大きく劣るレベル。
演出も、先述の通りテンポが最悪なので、カットすればいい「ただ歩いているだけのシーン」が頻発する。撮った素材をそのまま使っているのだろう。二時間ドラマでももう少し自然に演技させる、と言いたくなるほどクサくて意味の無い芝居が多発する。まあ、演者の側もこんな破綻しまくったホンで演技もクソもないのだからどうすることもできなかっただろう。まだおバカコメディに振り切ってもらった方がましだ。脚本のアイディア不足も先述の通りだが、「過去に戻って日本経済の崩壊を食い止める」方法が、「偉い人に伝える」以外、具体的に何も方策がないというのも驚きである。そして「信じてください」と言うだけ。
そして事件解決の手段はまさに目を疑うもの。しかも悪い意味で。久々に唖然とした。あり得ないにもほどがある。ほとんどの場面を1.5倍速で観ないと耐えきれなかった。
2007年と言えば、ハリウッドでは『ボーン・アルティメイタム』『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』『トランスフォーマー』、邦画でも『キサラギ』『秒速5センチメートル』が公開されていた。別に原始時代ではなかったはずだ。こんなものを1800円もかけて観た人間はどんな気持ちになっただろう。
駄作(それも何の哲学も志も野望もない)を観るといつも思うが、こういうものを作るために業界の貴重なリソースを割かないで欲しい。時間と金と人と資源の無駄である。