週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『スポットライト 世紀のスクープ』★★★★☆

 

  実話物映画を連続して観たくなったので評判の高い作品を選択。アカデミー作品賞を受賞した、実際に発生した神父による児童性的虐待とその教会ぐるみの隠蔽、そしてそれを暴いたボストン・グローブ紙の記者たちの物語。

 

 こう言った作品を観るとき、どうしても自分が日本人であることが障壁になる。教会の神父の罪を暴く、という行為の衝撃を、おそらく正確に受け止めることが困難だからだ。問題の大きさは理解出来るが、文字通りの聖域である神父の不可侵性、教会という場所そのものの大切さ、思い出の場としての重みは、当事者でなければわからないだろう。

 劇中で明らかになる問題がある意味で興味深く、他に類例がないポイントとして、「誰もがある程度、そうした虐待が発生していることを知っている」というところにある。教会に行ったことがない自分ですら、ニュース等から神父による虐待の事例は耳にしていた。劇中の新聞記者らも、そうだったのではないか。実際、グローブ紙自体も何度も報じてはいた。しかし、局所的、部分的な「解決」がもたらされるだけで、問題の深刻さは全く伝えられていなかった。

 

 映画を観ていて浮かんだのは、広い白い壁にべったりと薄く塗りつけられたクソ、というイメージだった。非常に薄く、またあまりに長い間、塗りつけられているので見慣れた人間は今さらなんとも思わない。しかも、この壁を取り壊すと多大な労力が必要で、しかも汚れてもなおこの壁を必要とする人、愛している人がいるのだ。かくして、時折悪臭を放ちながらこの汚れた壁は目の前に存在し続けている。

 具体的でわかりやすい大事件は、本作中では発生しない。少なくとも画面上では。キャスト以外ではおそらくほとんど金の掛かっていないであろう映画で、しかも物語は実際の記事の裏取りの過程をひたすら丁寧に描いているだけ。極めて地味である。この作品が成功しているのは、目先の派手さを追わず、むしろ我々の暮らしている日常の見え方を一変させているというところにある。

 

 なにしろ、社会の闇、とか裏側、とかですらないのだ。目と鼻の先にある教会で行われ、被害者も加害者も山ほど世の中にいて、新聞記事にもなり、証拠品すら新聞社にも送られ、裁判所でも公開されている事件。通常なら事件と呼べもしないだろう。それが、教会という聖域の力によって何十年も隠蔽され続けてきた。

 本作の最も印象深いシーンはラスト近くで登場する。この事件を明らかにするための手立ては、とっくの昔に新聞社にすべて存在していた、と指摘するシーン。実はこの映画は、このシーンに辿り着くために存在している。手段はずっと在った。誰も何もしなかった、皆目を塞がれていた、というだけだった。

 

「これを記事にするなら誰が責任を取る?」というセリフに対し、「じゃあ記事にしなかった責任は?」と返す下りが、頭にこびりつく。派手派手しく目につく邪悪とか闇とかではなく、我々はただ流れていく日常や、当然視している聖域と向き合わなければならないのだろう。