週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『若おかみは小学生!』★★★★★


劇場版「若おかみは小学生!」予告編

 風邪を引いて数週順延していた映画をようやく鑑賞。エンタメ界隈で話題の作品、ようやく観ることが出来た。筆者の周囲では口さがない知人も絶賛の嵐だったので、それなりにハードルを上げて観ることに。

 感想は、「圧倒的佳作」という感じ。傑作、というより、とにかくよく出来ている作品。トリッキーでもなんでもない、正攻法でここまで作り上げたことに感嘆。派手に「ここが凄い!」という映画ではない。観ているうちにじわりじわりと胸の内で暖かくなって、花開いていくような、そして身体が幸福感に満たされているような作品。

 

 たとえば『カメラを止めるな!』の場合は、非常に他人に薦めやすく、宣伝もしやすい。ネガティブ要素を弾き飛ばす仕掛けが映画そのものに存在しているので、わかりやすく褒められる要素があるからだ。

 しかしながら本作の場合、そういう意外性は一切無い。ザ・直球勝負。そればかりか、本作はシリーズ物ではないアニメ映画としては久々に、ターゲットをきっちり子どもに絞り込んでいる。さわやか女子高生主人公夏休みきらきら大人が観て泣ける映画、ではない。そこが凄かった。

 驚くほどに子どもが喜ぶようにきちんと作り込んだ作品なのだ。ギャグもキャラのリアクションも、子どもが観て楽しいように作ってある。ストーリー展開も、子どもが観てもきちんとわかるよう丁寧に、ひとつひとつ飛ばしたりせずに心理を展開させ、主人公・おっこの成長を描き出している。予告編で観てわかるとおり、そのまんま、若女将になった小学生の女の子の成長譚である。

 

 今はアニメ映画と言っても大人をターゲットにした作品がほとんどである。また、ドラえもんやコナン、クレヨンしんちゃんのようなシリーズアニメすら、親の世代が感動するような演出を当然のように入れている。子どもの数が減っている今、そうしたほうが客が呼べるので(大人も感動!的なキャッチコピーで)、プロモーションとしては正解なのだろう。しかし、そうすると子どもがついて行けない部分や、過剰にお涙頂戴の部分が出来てしまい、子どもが喜ぶ絵として楽しい画面作りが滞ってしまいかねない。

 本作はそうしたことを全くしていない。頭から終わりまで子どもが楽しい映画、感動するにしても子どもが自分の問題としてちゃんと受け止められる形に落とし込んで描いている。大人向けに逃げていないのだ。残念ながら筆者が観に行った回はほとんどの観客が大人だったが、子どもたちと一緒に観られたらもっと盛り上がって楽しめたことだろう。

 泣かせようと思ったら簡単で、大人が寂寥感に襲われるような話、お涙頂戴の場面をもっと山ほど作ったら済む。エピローグなんかも作ればより、「泣ける!」みたいな売り方が出来ただろう。しかし本作は、そうした感動させられるシーンをもさらっと流していく。無駄な感動はそぎ落としている。でありながら、物足りなくはない。必要にして十分である。しつこくない。それが素晴らしい。

 何しろ、「イヤな人」がただの1人も登場しないのだ。わかりやすい悪役を設定すれば簡単に盛り上げられるところを、ちゃんと理由やドラマを作って単なる記号的な悪役に済ませず描いている。この短い尺で、この大量の登場人物を、しかも子どもに理解出来るようにさばききるというのはただごとではない。

 

 丁寧なのはストーリー展開だけでなく、作画についても終始、手を抜いている箇所がない。冒頭からずっと、画面隅のモブキャラまで全員きっちり動き続けている。1人1人がきちんと芝居をしていて、おざなりにごまかしている動きがない。複雑かつゆっくりとした動きの神楽のシーンにも、動画の流用の動作がまるで観られないという慎重な作り。頭から終わりまでとにかくキャラクターが動き続けて、しかもその動きがどれもこれも見飽きないほどにかわいい。アニメ映画としてあきれるほど誠実なのだ。

 ストーリー展開そのものについては先ほども述べたように、明快かつ丁寧で、普通にやったら退屈になりかねない。「普通にやったら」というのはつまり、凡庸な演出で済ませ、ありきたりな動作で敷き詰めたら、という意味である。しかしながら、見せ方そのものが終始、誠実で奇をてらわず、観客を楽しませよう、という意識に満ちあふれているので、一瞬たりとも退屈する暇が無い。

 正直言えば、原作を読んだらもっとしっかり描かれているのだろうな、と感じるシーンは多々あったが、映画単体で充分成り立っている。百分弱の作品とは思えない、濃厚な物語が展開され、まるで1クールのアニメを見終えたような充実感に浸れる。子どもに向けて果てしなく誠実に創り上げた作品は、大人が観てもとにかく楽しい。

 

 しかしこの映画を宣伝する、となったら頭を抱えることだろう。なにしろ、「凄く丁寧に作られた良作」としか言いようがないのだ。何か普通じゃないことをやっていたり、「実は・・・・」と隠された秘密があったりすれば簡単だが、はっきり言って、ない。そういう内容ではない。「とてもよくできている」、ただそれだけの良作である。

 十年先、二十年先になっても価値が減じない、子どもの頃から観られる名作。原作読んでみようかな。