『スパイナル・タップ』★★★☆☆
実在しない(落ち目の)ロックバンドに密着したドキュメンタリー風のモキュメンタリー映画。80年代のロックバンドあるあるを徹底しながら、バンドの演奏や曲そのものは妙に格好良かったりもして「それらしさ」の作り込みがいい。
筆者のようにロックに詳しくない人間でも、どこかで観たことがある問題が山積していて細かく笑いを取ってくる。作風の大幅な変化、一部のメンバーだけがやたら入れ替わる、理由不明の食べ物へのワガママでもめ事発生、そして極めつけは、何にも出来ないのに口だけ出したがるメンバーの恋人のせいでバンドに不和発生(最大のあるあるはエンディング間際に登場してこれも笑わせてくれた)。
あるあるを並べながらも「さすがにそれはねえだろ」と言いたくなるようなコメディ要素も挟み込んできて、にやにや笑わせてくれる。笑いの方向性はイギリス的というか、『The Office』あたりのノリに近いだろうか。ギリギリあり得そうであり得ない、でもあったらめんどくさいな、と感じさせる、監督と脚本家の悪意。
ただ、幸いにしてそれだけには終わらない物語性も終盤に用意されている。作中での「ロックとは、国定公園でヘラジカを保護しているようなもの」(だったかな)という比喩は、優しく胸に響いた。さすがにこの手のロックバンドに何の興味も無い人からすると楽しめない作品だとは思うが、少しでもこうした音楽や娯楽産業の裏側に興味を持った人は楽しんで観られるだろう。
ただ、現在だとこれをドキュメンタリーでやってしまった映画があるので、それを先に見てしまっている今だと少し微妙な気持ちも。
こちらもとってもいい映画。完全ノンフィクションです。
追記:
本稿を書いてから調べてみたところ、この作品がモキュメンタリーの元祖に近い作品だということだった。完全にバンドの設定やキャラクターを作り上げた上で、ほとんどのシーンをアドリブで作り上げたとのこと。無知でお恥ずかしい。それゆえの圧倒的高評価なのだ。YouTubeで観られるロバート・秋山の「クリエイターズ・ファイル」シリーズの元祖とも言える。