週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『動物世界 カイジ』★★☆☆☆


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 「どうぶつせかい」という読みでいいのかわからないが、Netflixに入っていたギャンブル映画。説明文に「じゃんけんが~」と書いてあったので「ん?」と思ったが、調べてみるとそう、公式で許諾が出ている『賭博黙示録カイジ』の限定ジャンケン編の中国での映画化。

 

賭博黙示録カイジ 全13巻 完結コミックセット(ヤングマガジンコミックス)

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  主人公の名前も字幕では「カイジ」になっている。とはいえ、設定はまるっきり異なるオリジナル。最初は悪くないかと思ったが、終盤になるにつれて疑問符が続々。

 

 まずこのカイジ、ピエロである。別にレトリックではなく、本当にピエロの仕事をしている。さらに、脳の中にピエロが巣くっている、らしい。意味がわからないだろうが本当にそうなのだから仕方が無い。過去の何らかのトラウマで、子どもの頃観たアニメのピエロが頭の中に取り憑いて、人や化け物を惨殺する妄想をカイジに植え付け、時折その世界にトリップさせる。

 この設定自体はそれほど悪い改変とは感じなかった。原作のカイジがギャンブルに狂ったように身を投じるメンタリティは、福本作品特有のナレーションによって増強されて描写されているので、映画では見せ方が難しい。それを「そもそも狂気じみた遊戯への執念があった」というような内面を付け加えるためにオリジナル要素を足すこと自体はアリだろう。実際、冒頭のピエロを描写するシーンはCGの美しさも相まってかなり見応えがあった。

 また、この監督なのか撮影監督なのか、絵作りが非常によい。色合いを強調したヴィヴィッドな画面が、この世界のドラッグに囚われたような危険な匂いを感じさせて面白い。アクションにもセットにも金が掛かっていて、外連味たっぷりの世界観が期待させる。トネガワポジションはなぜかマイケル・ダグラスがやっていたが、これもハマっている。

 

 ただ、よかったのはそこまで。あとはエスポワール号(的な船)に乗った後も退屈し通しだった。基本、カイジのゲームは絵面が(鉄骨渡り以外)派手ではないので映像化が難しいのだが、本作の限定ジャンケンはカタルシスを味わわせるのが特に困難なゲームである。繰り返し、CGを使った丁寧な解説が入るが、一つ一つの行程を丁寧に見せるよりも、映画としてどこか一点にどんでん返しなどの山場を作ったほうが盛り上がったのではないだろうか。

 また、カイジのキャラクターの変更も気になった。本作のカイジ、正直クズではない。仕事に誇りが持てずだらけてはいるが、病気の母親の看病もしているし、好いてくれている看護師の幼馴染みもいるし、頭もいいしで、なんだ、別にそんなに悪いヤツじゃないじゃないか、という気になる。

 確かに映画の主人公として普通に考えれば、これぐらい避けがたい事情があった上でギャンブルに身を投じたほうがよいかも知れないが、なにせカイジのギャンブルは裏切りアリ、騙しアリでギリギリの勝負をするものなのだ。善人よりもダークヒーローのほうがセリフに説得力が出る。

 

 おそらくその補完としてのピエロ設定なのだろうが、この設定も全く機能していない。たまに思い出したようにピエロが取り憑きそうになったりするがそれぐらいで、別に普段のカイジと極端に切り替わった人格になるわけでもない。また、序盤に登場する妄想癖も、特にギャンブル中に登場するわけでもない。せっかくの設定が生かし切れなかったのが残念。

 だいたい、他人が化け物に見える、という設定すらも、時々突然出して画面を盛り上げる以外、何の働きもしていない。映画のオリジナル要素が、限定ジャンケンの場面になると一切役立っていないのだ。冒頭のピエロシーンを観たときは、きっとキメのシーンになるとピエロに変身して黒服をぼこぼこにしたりするのだろうと期待していたのだが、別にそんなこともない。ここまで変えたんだったらいっそそれぐらいのアクション映画にしてしまえばよかったのだが。

 

 はっきり言って、映像としてはオリジナル部分が面白いのだが、そこが何の意味も持っていないので全体としてはちぐはぐなだけで終わってしまっている。監督には才能があると思うので、他の作品も観てみたい気がするのだが。続編ありありでラストシーンに至ったが、次は何するのだろう。ピエロとの二重人格青年のカンフーバトル映画のほうが、個人的には観たいのだが。