『ヘイル、シーザー!』★★★☆☆
『バスターのバラード』に大変感心したので、同監督作品を観たいということで観賞。残念ながら肩すかしといったところか。
主演はジョシュ・ブローリン。サノスのあの優しい目で、ハリウッド黄金時代の豪腕プロデューサーを演じる。他にも主役級のスターがぞろぞろ出演しているあたり、監督の人望が窺える。コメディであること、映画愛に満ちていること、いろいろな要素が三谷幸喜作品を想起させた。
コメディとしてはかなり手堅くまとめた作品で上映時間も短く、小品といっていい仕上がり。題材は、映画撮影中の主演スターの誘拐事件を軸に、様々などたばたが癖の強い人物によって繰り広げられていく。一個一個の要素は面白く、印象に残るが、全体として繋がったとき、特に何について描いているというまとまりに欠けている。最後の最後に少しだけ、まとめらしいものもあるはあるのだが、そんなにすっきりした結論が出るわけでもない。
ひとつひとつのエピソードは全く絡み合ったりしない。誰かの人生に何かの結論が出るわけでもなく、まさに「ハリウッド黄金期のある1日」でしかない。だとすれば100分ちょっとのこの尺はやや長いだろう。もしかしたらこの頃から、監督は短編連作が描きたかったのかも知れない。この映画も、むしろその形式、一人の忙しいプロデューサーの元に訪れる様々な問題を描く群像劇、のほうが似合っていたように思う。
面白いところとしては、劇中劇の「黄金期のハリウッド映画」があるだろう。ざっと見た限りだが、この作中作のシーンに限っては、CGなどを使わず、当時の技術で出来る範囲のことだけで撮影しているように見えた。カメラも物理的にあり得ないところには動かず、背景は手描き、音楽も場合によっては現地での生音、キャストのメイクもいかにも付けひげ、かつら、といった風情。現代のスター、ジョージ・クルーニーらがそうした古典的な方法で作られた映画の中にいるのは、妙に面白かった。