『遊星からの物体X』★★★★★
遊星からの物体X[AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
- 発売日: 2018/03/27
- メディア: Blu-ray
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伝説的なSFホラーということでおっかなびっくり視聴。『寄生獣』などの元ネタだということは知っていて、どんな感じの化け物が出てくるのかも大体知っていた。
観賞して作品としての美しさ、完成度の高さに驚愕。B級ホラーなんてとんでもない。まごう事なき傑作。
まず、物語が始まって最初に感じたのは絵としての美しさだった。南極の(撮影場所がどこか知らないが)映像としての美しさ、基地内部の静かで人工的な造形。こだわりぶりは『シャイニング』と近いかも知れないが、ずっとエンタテインメントを指向している。無駄のないカット割りが冒頭からずっと恐怖を演出し続ける。
無駄がない、が全てに徹底されているのが本作の美点だろう。台詞回し、音楽、恐怖演出に至るまで、過剰なところは一切無い。必要最小限で全てのパートを成り立たせている。 べらべらと喋ると緊張感がなくなることをきちんとわかっているので、展開に必要ない怯えの表明や機能しない(無くても成り立つ)セリフは全て外してある。
SFとしてのアイディアは原作に寄るようだが、これも素晴らしい。つい目を引く異形のモンスターデザインが印象に残りがちだが、実際は「となりにいる人間が全く信用出来ない」という不安がテーマになる。現実のシチュエーションでも、「殺人鬼が紛れ込んでいる」などで充分描きうる内容なのだが、SFのアイディアを取り込むことで、一瞬前まで知人だった人間が信用出来ない、という状況を作り出せている。
いつ何時、人間が人間でなくなるかわからない。隠喩としても面白い。シチュエーションとしては『エイリアン』にかなり近いのだが、描いている内容はこちらのほうが秀逸だろう。ホラーは人間の恐怖、不信、絶望を描けるのがよい。
宇宙からやってきた設定が安直すぎたり、登場人物が大勢いる上にやや混乱気味で誰が今どこでどうしているか若干わかりにくいきらいがあるが、登場人物が必要以上にパニックに陥ったりせず、観客も納得いく論理で思考しているところも好印象。ともすれば単なるビックリ気持ち悪ホラーになりかねない内容を、切実で身近な不安に接続させているのはこうした丁寧さに依るだろう。
ラストシーンの不穏な空気は、短い尺の映画ならではと言える。もしかすると、白人と黒人がいるという状況も意味があるのだろうか? 他者への不信は、人間がいる限り永遠に終わらないのだ。