『ビートルジュース』★★★☆☆
ティム・バートン監督の初期作。ホラーを2作連続して観賞したせいで心がやられていたので、愉快な作品を観たいと選んでみた。
バートン監督らしいぶっ飛んだ設定とぶっ飛んだ脚本のコメディ。マイケル・キートンの怪演は前評判通り強烈だが、作品全体はいささかまとまりに欠けると言わざるを得ないか。
田舎町の家に住むとある夫婦が亡くなり幽霊になってしまい、しかし仲むつまじい二人だったのでそのままその家で暮らすように。だが、その家にセンス皆無のろくでもない一家が越してきてしまい、家を勝手に大改装し始める。夫婦は、新入り家族の中で唯一まともな娘(ゴシック少女)と親しくなりながら、何とか彼らを追い出そうと画策する・・・・というあらすじ。
コメディとしてシチュエーションはよく出来ていて、出てくる人物も誰も彼もキャラが立っている。今の三谷幸喜監督あたりが作ったら、綺麗にまとまった作品に仕上がるだろうと感じた。さらに娘役のウィノナ・ライダーがとにかくかわいいので、彼女を観ているだけでも満足感はある。あるのだが・・・・。
メインキャラのビートルジュースが、このコメディシチュエーションのバランスを崩しているのが疑問だった。確かにこのキャラ、むちゃくちゃな外見にやることなすことでたらめ、ちょうど、数年後に監督が作る『バットマン』でのジョーカー、他にも『マスク』あたりの元ネタになっている。この人物は至って面白い。
しかし、この珍妙なキャラクターが、メインプロットとほぼ絡んでいないのだ。基本的にストーリーを邪魔する以外、何もしていない。本来、引っ越してきた家族の親たちが敵キャラクターになるはずなのだが、途中で闖入してきたビートルジュースが暴走し、状況を引っかき回し、結局彼のほうが悪役になった挙げ句、駆逐される。親たちはなんとなく流れで味方になり、なんとなく一件落着して終わる。
ストーリー冒頭で設定された「この家族の勝手な家改装をなんとかして、大切な家と主人公たちの穏やかな日常を取り戻す」という目的が途中で雲散霧消するので、観ていて迷子になるのだ。場面場面のアイディアは豊富なのだが、それが繋がったとき、一貫した筋になっていない。ビートルジュースが暴走した結果、当初の目的が解消され、主人公夫妻とヒロインが幸せになる、というならすっきりするのに。ヒロインもどうやら成長している様子なのだが、彼女のほうは元々どんな問題を抱えた人物なのかはっきりしないので、こちらも釈然としないエンディングを迎える。
お化け屋敷の本来の主の奮闘と、巻き込まれる少女、そこに現れるトリックスター、というのが元々の構想だったのだと思うが、トリックスターの暴走にシナリオが振り回された結果、トリックスターを面白く見せることに軸が移行してしまい、筋立てが壊れてしまったという印象。とはいえ、気楽に楽しむホラーコメディとして決して悪い出来ではない。感覚的に画面で起きる出来事を受け止めれば充分、といったところか。