『ROMA/ローマ』★★★★☆
ROMA | Official Trailer [HD] | Netflix
『ゼロ・グラビティ』(★5つ)のアルフォンソ・キュアロン監督の最新作にして、配信限定の映画として初めて金獅子賞を受賞した作品。待望の作品を早速鑑賞。
前評判通り、恐ろしいほどに私的な物語が、今まで観たことがないほど美しい映像で描かれる芸術的な作品。細部に至るまで作り込まれた1970年代のメキシコの町並みと人々が映り続けるが、どれだけリアリティを持たせても、この圧倒的な美意識の発露によって、ドキュメンタリー調には見えない。
北野武が理想の映画について、「ある一瞬を切り抜いても全てが写真として成り立つような」と表現していたと思うが、この作品はまさにそのような作品。機能を優先して顔をアップにしたり、カットを切り替えたりすることはない。1カットごとが長く、ほとんどが定点カメラのように定位置から動かない画で構成されている。
美しくない瞬間が存在しない、と言ってもよいほど、映像は完璧かつ自然に仕上げられている。場面によってはおそらく、背景の大半がCGで描かれている部分もあるはずなのだが、一切それを感じさせない。モノクロの画面で明暗を強調して描かれる主人公たちの家、メキシコの街、村の光景を執拗に引きで写すその手法は、ヴィスコンティやフェリーニ、市川崑の作品を思い出させる。前作と完全に対極にある作品を仕上げてみせる監督の振れ幅には脱帽。
繰り返される水・波・車(そして飛行機)のイメージは次第に大きくなり、終盤へとなだれ込む。正直に言えば、中盤当たりまでの前振りにあたる場面は非常にゆったりと進むため眠気を誘う部分もあったが、娯楽性を振り捨ててでもこの作品を丁寧に描かなければならない、という強い思いが監督にはあったのだろう。全てのシーンが、脳に刻み込まれたかのように感じられる。
一貫して描出されるのは、男の愚かしさ、そしてそれでも生きねばならない女性に突きつけられる苦しみだと感じた。美しい思い出の映画、のような言葉も評の中で見かけたが、筆者はむしろ、傷を負っても生きるしかなかった人たちの物語と捉える。病院のシーンの冷徹なまでのリアリズムは、思い出と呼ぶにはあまりに容赦が無かった。
再度断言するが、エンタテインメント性は皆無に等しい。有名なスター俳優も、使おうと思えばいくらでも使える監督だが、ひとりとして出てこない。メジャースタジオではとても制作出来ない作品だろう(奇妙なそして残念なことに)。けれど、この物語は語られる価値がある。
映画は劇場で大画面で観るものであって、配信限定の映画は賞の対象にするべきではない、という議論が存在するらしいが、それは間違っているだろう。こうした映画を作るリスクをメジャースタジオが負えない以上、配信メディアの作品制作には代えがたい価値があり、劇場で公開するに耐えるだけの緻密な絵作りを行っているからには、この作品も間違いなく映画なのだ。
またいつか見返せば、評価も変わるかも知れない。自分が年を取ったときまた観てみたいと思う、良作。