週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『へレディタリー/継承』★★★☆☆


『へレディタリー/継承 』予告編 (2018年)

 

 ホラー映画苦手な恐がりがホラーを観賞するシリーズ第三弾ということで、現在非常に話題のホラーを観賞。観た人からは「観たことを後悔した」「終演後立ち上がれなかった」「でも観たほうがいい」という評価が多数な上、観賞直前に観に行ったホラー好きの知人が「凄く怖かった」と褒めていたのでものすごく不安になりながら映画館へ。

 正直言えば、結構拍子抜け、といった印象だった。

 

 内容的にネタバレ的要素があるので途中で区分して書こうと思うが、冒頭のとあるシーンの前後までは非常におもしろかった。個人的にも好みの展開で、「厭な」出来事が神経を苛んでいくサスペンスは、デヴィッド・フィンチャー作品や、邦画だと『CURE』あたりがとても好きなので、「おー、この路線か」とおっかなびっくり目を細めながらもワクワクしながら観ていた。

 そしてセカンドパートの途中、新たな登場人物によって思いがけない展開へ進むのも「おっ」と思い、何が起こるのか、怖がりながらも期待して観ていたのだが・・・・。

 セカンドパートの最中に、次第にあれ・・・・?と置いてけぼりにされていく厭な感覚があり、あれよあれよという間に、「???」という気持ちにされ、「え? この理解でいいの? 自分が読み違えているの?」と疑問に感じるくらいシンプルな真相が明らかになっていく。自分の頭の中で想定していた「答え」の中ではたぶん、一番単純な、「まさか違うだろ・・・・」と思うものだった。

 

 そしてそのまま、エンディングへ・・・・という、置いてけぼりのままの終了、というのが個人的な感想。怖いところは確かにいろいろあったのだが・・・・真相がわからない、期待を持っている間のほうがよほど不安で心配だった。『IT』でもそうだったが、大体の方向性が見えてしまうと拍子抜けしてしまうのだ。

 トラウマ級に重い個人的ベスト作品、『CURE』は最後の最後まで怖かったが、これは自分の理解出来ない領域の悪意が永遠に作動し続ける、という絶望が描かれているからだと思う。 

CURE [DVD]

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  今回の作品における悪意は、「やりたいこと」が明瞭で理解出来るので、そこで怖さが終わってしまったのだ。

 

 

 

 

*********以下、ネタバレ**************

 

 

 

 

 観た人には明らかだが、上記の個人的に一番盛り上がったポイントは、「妹の首が飛んだ下り」。おー、『アウトレイジ』みたい、と思ったことは内緒だが、ともかくこの下りは期待を煽った。特に、これをやらかしてしまった後の兄貴のリアクション、「何も考えず帰宅して寝る」が、まるで自分のことのようにあり得そうな行動で、生っぽくリアルで秀逸だった。さらにその後の母親のリアクション。ここで期待がマックスまで上がった。正直この方向の「家族内絶望殺戮サスペンス」のほうが怖かったかも知れない。

 その後、降霊術のあたりで「あれ? オカルトを前面に出していくの?」と疑問を感じさせ始め、そして父親が燃えた後は「?????」と完全に置いてけぼりにされてしまった。正直、「お祖母ちゃんがやってたの悪魔召喚っぽいけど、まさかそんなそのまんまのわけないよなあ・・・・」と思っていたので、「当たりなの!?」と唖然としてしまった。そっちに行くなら、もっと全然違う物のように見せかけておくとか、おばあちゃんは善意で何かをやろうとしていたように見せるとか・・・・もっとやりようは会ったと思うのだが。

 

 なにぶん、前半の盛り上がりがオカルトと全く関係ない形で起こるので、「現実で起こりうる厭なこと」のインパクトが「現実ではあり得ない怖いこと」を圧倒的に勝ってしまい、怖さが期待を越えてこないのだ。母親がぶら下がって首を自分でのこぎりで切っている、とか見せられても、「凄い頑張ってるなぁ・・・・」としか思えない。リアルな不幸、自分の身にも起こるかも知れない絶望のほうがよっぽど怖かった。

 構成で言うと、途中で視点が母親から息子に切り替わるのもいただけない。感情移入していた哀れな母親がどんどん人間からかけ離れていく上、息子に慌ただしく気持ちを移さないといけないのでそこでも置いてけぼりになってしまう。これは明らかな失策だろう。初めから息子を軸にして、「何かが自分を手に入れようとしている」というホラーとして見せたほうが、上手く描けたのではないだろうか。

 

 ただ、筆者が日本生まれの日本人であるから、悪魔崇拝の恐ろしさが今ひとつ伝わってこないのはどうしようもないことなのかもしれない。もしもこれが日本の片田舎を舞台にして、得体の知れない土着の宗教を題材にしていたらもっとじっとりと怖く感じられたかも知れない。こればかりは、文化に寄りかかった恐怖を題材にしている以上、致し方ないことだろう。自分の手でどうすることも出来ない物事に引き込まれていく恐怖と言えば、筒井康隆の『鍵』という短編が絶品だが、これなどは文化の壁に遮られず、誰でも恐がれるホラーだろう。

 

鍵―自選短編集 (角川ホラー文庫)

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  終始緊張しながら観ていたので疲れはしたのだが、「頼む、このまま終わらんでくれ・・・・」と思っていたら終わってしまったので、逆に残念だった。もっと怖がらせてくれると思っていたのに・・・・。