『来る』★★★★☆
またも誘われて苦手なホラー映画を鑑賞。先日の『へレディタリー』と並べて映画館で話題になっていたので、果たしてどんな物だろう、とドキドキ。一部ではホラー版『シン・ゴジラ』と言われていてわかるようなわからないような、という気持ちで観に行った。
結果として、最後には大いに楽しんで帰った。もっと言うと、こんだけ毎週毎週映画を観ている人間としてもかんじたことがない、よくわからない面白さ(褒め言葉)が詰まった作品だった。一言はっきり言っておく。上の動画のサムネはえらく怖いし(こんなシーンあったっけ)、ホラー映画として宣伝されているが、これはホラーではない。
ホラーではないというのは正直な感想で、見終わったときは、よくもまあ日本映画でこれだけの布陣と予算を集めてB級カルト映画を撮れたもんだと深く感心した。
ツイッターでの感想を見ると意外と怖かった、といった言葉が散見されるが、筆者のような生粋の恐がりでも頭から終わりまで怖いと思うシーンはひとつもなかった。『へレディタリー』のほうがよっぽど怖い。ではこの映画は失敗作なのか。
実は途中までは「この映画選んだのは失敗だったか・・・・?」と悩みながら見ていた。徹頭徹尾ありがちなシーン&説明セリフの乱舞、キレのない演出、オリジナリティ皆無のリア充描写の連続(監督(もしくは原作者)はチャラいイクメンとか大っ嫌いなんだろうなあ)。テンプレを見せつけられるのはとにかく苦痛。その上、オープニングシークエンスは明らかに『ドラゴンタトゥーの女』を意識しているな・・・・と思っていたら、本当にリスベットっぽい女の子と、フリーライターの男が出てくる。
主人公が誰なのかよくわからずに観ているうちに、何か恐ろしい現象が起こり始める・・・・のだが、起こる現象そのものもいきなり驚かしてくる系以外は、ポルターガイストレベルのことしか起こらない、というか、映らない。「何か」が来ているようなのだが何が来ているのかさっぱりわからないので怖がりようがない。
実は一応どんでん返し的な物が起こるのだが、これがどうにももうひとつ上手く機能していない。最初のシーンで起きた出来事が違う形で解釈される、ミステリー的な展開であるのだが、なにせ他の要素がごちゃごちゃ大量に投入されているので、謎が解けた快感は伝わってこない。また、ネタバレを避けて言うと、どんでん返し前の描写が十二分に胡散臭いせいで、そのシーンの「真実」が明かされたところで、「ああ、やっぱりね」としか感じられない。くわえて、超常現象と人間がやったことの境界線がはっきりしないので、どこからが肝心の「ぼぎわん」が来たせいなのかがよくわからない。もやもやが解消されないのだ。
一体どういうテンションで観ればいいんだ、いったい誰に感情移入したらいいんだ、というもやもやした感情で半ばほどまで映画を観ていた・・・・が、途中、リスベットっぽい女の子の姉が本格的に動き始めたあたりから、超展開が始まる。
柴田理恵演じる尋常でなくキャラの濃い霊能力者が出てきたあたりから「・・・・?」と感じ始めてはいたのだが、それ以降、何か知らんが派手に死ぬ登場人物、ガンバル霊能力者、怯える岡田准一、というシーンが順番に訪れ、よくわからないがとにかくやべえ状況である、ということが伝わってくる(何がどうヤバいのかは一生懸命観ていても判然としない。ぼぎわんが何なのか全くわからないため)。
ストーリーが進むにつれ、「この物語は愚かな男に振り回される女性の絶望を描こうとしているのかな・・・・」とか「好意的に解釈しようとするものの、収入源を失ったはずの登場人物がなぜか超高級分譲マンションから退去しないなど不可解な描写が続き、マジメな解釈を妨げる。細かいところを観ているとこの手の明らかに常識を逸脱した場面が連続する上、感情移入しやすいまともな人物が1人も登場しないので、これもまたどうしたもんだろうか・・・・でも何か禍々しき者はとにかく強大になっているご様子。
そしてメインキャラクターであったはずの夫婦が退場してしまい、緊張感はやたらと盛り上がったけどこの大量に詰め込まれたテーマやらホラー要素やら登場人物の憤りやら何やらをどうやって処理するのかと思っていたら突然の「そんなことより除霊しようぜ!」のウルトラ超展開がやってくる。
説明は困難だがとにかく除霊を始める。未だかつて観たことない規模のものすごい除霊が始まる。日本各地からやってきた一流の宗教関係者らが命がけで除霊をスタートする。このあたりの強キャラ大集合感は『アヴェンジャーズ』に近い。すげーやつらがやってきたぜ!からの、なんてこと無いオッサンおばさんJKたちが続々変身していく謎のかっこうよさ。意味がわからないと思うが、本当にそんな展開だから仕方ない。
その後はもう、観てもらったほうが早いと思うが、とにかくすげー除霊が続く。この辺、目を見張るほど金が掛かっているので異常に盛り上がるし、わざわざマジックアワーに撮影しているおかげで映像的にも美麗。混乱を極める岡田准一も、よくまあ演じきった物だと感心する。そして柴田理恵がかっこいい。
総合すると、『バーフバリ』に印象が近い気がする。いろんな可能性に広がりうる要素・物語の種・アイディアをしこたま詰め込んであっちに振り、こっちに振りして、ホラーかな?サイコサスペンスかな?と思わせた挙げ句、最終的に全ての可能性を力強くぶん投げて異能力バトルものになって終わった、というすこぶる斬新な映画。何度でも言うが、いい意味でこんな映画、観たことない。
これ狙って作ったのだろうか? だとしたら相当凄い。原作を読むのが楽しみ。
***********一応ラストシーンネタバレ************
ラストのオムライスの国については、観たときは「え?」という印象であったが、アレは一応、子どもの内側にはもうぼぎわんはいません、ということをビジュアル的に見せたかったのかなあ、という気がする。にしても衝撃的だったけれど。
あと、個人的にはラストシーンで、子どもにもイラッとさせようとしているのかな、と感じた(笑)。あのヴィジュアルを見せられれば、あれだけの人を死なせながら1人勝手に脳天気な子ども、というオチになって、子どもが助かったいい話、という印象は残らないだろう。きっと監督は、ありとあらゆる奴が大嫌いでむかついているんだろうなー、と思う。中島監督の他の作品を早く観てみたい。