『U・ボート ディレクターズ・カット』★★★★★
2019年1本目は、あまりの長さに普段はそうそう見られない作品をチョイス。3時間半という長丁場、殆ど全てのシーンを潜水艦の内部のみで描ききる第二次大戦中のドイツ海軍の群像劇。
CGに頼れない時代に実物大のセットとミニチュアワークで、オール実写の凄まじい迫力で描ききった傑作。俳優陣は全員ドイツ人なので知名度についてはわからないが、どの人物も本物の軍人としか思えないほどの凄絶な表情と動きで演じきる。特に、機関長役と艦長役の眼差しは脳裏に焼き付くほど。
異常に困難な作戦を強いられたU・ボートの乗組員たちの死闘をただただリアルに描いた作品なのだが、冒頭では、対チャーチルの憎悪感情や、ヒトラーに対する怒りの混じった思いなど大局的な思考を吐露していた人物たちが、物語が進むにつれ、目の前のどうしようもない現実に取り込まれていく様がことさらにリアルだった。
それは登場人物たちの外見も同様である。次第次第に海水、汗、垢などの汚れに塗れていき、髪はべとつき、服はくすんで身体に張り付き、髭も伸びて誰が誰なのかわからなくなっていく。潜水艦そのものが一体となって窮地を乗り越えていくのと呼応するかのように、全ての登場人物たちは逃げ場のない状況で一塊の群像とかしていく。
しばしば戦争映画では、後日の歴史研究の結果を盛り込んだ台詞や展開が登場し、客観的に戦局を当時の人々が読んでいたかのようなシーンが出てくることがあるが、本作は見事なまでにそれを排除している。作中の台詞にも登場するように、現実に支配されていく人々の物語なのだ。
劇中で、しきりに戦場での英雄譚を聞きたがる人物が登場するが、乗組員たちは誰も取り合わない。まだ彼らにとって戦いは物語になっておらず、誰かに語れる娯楽にもなっていないのだ。
夢も希望も未来もなくなり、降ってきた作戦に従う以外出来ることもなく、ただただ目の前の現実に傷つけられ、発狂し、壊されていく若者たち。今現在、のうのうと安全な場所で為政者視点でものを言っている人々(どう見ても戦時に為政者ポジションに立てるとは思えない人ばかりなのだが)は、この映画に描かれている程度のことも想像できないのだろうか。