週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『LION/ライオン 25年目のただいま』★★★☆☆

 

 「ネタバレに注意」みたいな触れ込みでこの作品の話を聞いて、興味を持ったように記憶している。この触れ込みって本当によくなくて、変な期待感や予想をつい持ってしまい、結果、そんなたいそうなオチがないと、そこまで悪くない作品でも肩すかしに感じられてしまう。邦画でしばしば売り文句を「衝撃のラスト!」とか付けているものがあるが(小説でもある)、衝撃のラストはほとんどの場合予期せず訪れるから面白いので、やめたほうがいいと思う。

 本作はあいにく、そうした意外性のあるオチを持つタイプの作品ではないが、しっかりと作られた美しい1作。同じインドが舞台の『スラムドッグ$ミリオネア』のようなフィクションとしての圧倒的力を持ってはいないものの、子役の存在感、そしてインドの情景の美しさを味わえる佳品。

 

 評価そのものは非常に迷った。よく出来た映画なのは間違いないが、問題は本作が実話を元にしている、ということ。驚くべき実話を下敷きにしている場合、正直言って素直にそれを描けば、上手いストーリーになってしまう。だからどうしても、実話を再話する以上の内容、つまり、「その実話を通して何を描くか」という部分に期待を抱いてしまう。たとえば『アメリカン・スナイパー』、たとえば『ザ・ウォーク』のように。 

 そうした観点で言うと、本作が「描く価値のある実話」であるのは間違いないが、ではそれにプラスして何を描けているか、というと、ドキュメンタリーフィルムで描ける以上のことを描いているか疑問には感じる。実話物は、仮に事実に忠実に演出したとしても、実際に起きたこと以上の普遍的な内容を描くことは可能なのだ。

 演出も演技も見事であり、また、「迷子」という主題をオーストラリアで暮らすようになった後も展開し続けているところまでは期待を抱けた。地理的な迷子のみならず、自らのアイデンティティ、生き方、存在意義、人間関係、全てにおいて迷子になってしまう主人公。その根源には、世界規模での経済的不均衡、金銭的な力関係が横たわっている。安直に「家族」を素晴らしい物として描かないストイックな姿勢も好感を持てた。恋人に馴染みきれない主人公の複雑な心情を逃げずに描くのもよい。

 

 でも、もう一声欲しかった。あのラストで何もかも解消した、ということでよいのか? 『ハドソン湾の奇跡』で感じた、「実際に起きたハッピーエンド」が問題の全てをかき消してしまうことへの違和感が、ここにもあった。主人公は答えを見いだせて、本当によかった、なのか? 彼はもう迷子ではないのか?

 ネタバレは避けるが、エンディングの後の人間関係は果たしてどうなったのか、めでたしめでたしといったのか。2012年に起きた出来事を2016年に映画化すれば、それは確かに掬いきれない要素が多発するだろう。実話を慌てて映画化するのは、こうした物語化が不完全な状態になってしまいかねないので、惜しさを感じてしまう。