『エンド・オブ・キングダム』★★☆☆☆
前作『エンド・オブ・ホワイトハウス』は以前鑑賞しており★4の評価をしていた。正直ストーリーは全く覚えていないのだが、それなりにアクション映画として楽しんだ記憶が在る。北朝鮮に襲撃されたホワイトハウスの話で、
1.長期にわたって進められた計画に全く気づけないガバガバの警備体制
2.むしろ警備側に大量に敵が潜入
3.大統領を助けられるのは主人公1人だけという人材不足
といった疑問点もあったものの、まあ何か楽しければいいや、というぐらいの気持ちで評価していたと思う。
個人的には、アクション映画はアクションを楽しむのが主眼なので、ポリティカルサスペンスとしての完成度が多少低くても、アクションの邪魔にならなければOK、というのがスタンスである。そもそも現実でアクション映画みたいな事件が起きていない以上、きちんとした世界観を遵守していたら面白くなんてなりようがない。
なので「こんなこと起きるわけ無いじゃん」的な批判はしないのだが、にしても今回の『キングダム』はいろいろ緩すぎないか、といわざるを得なかった。
まず、先に書いた1~3の問題は以前に増している、というかもう悪化している(笑)。もうちょっとスマートな方法で各国首脳を襲撃するのかと思っていたが、そんなことはなく警備の半分くらいはテロリストに入れ替わっている。イギリスやべえぞ。
爆弾だの銃剣だのを運んだ車がぶんぶんロンドンを走り回って首脳を殺しまくるのだが、検問とかやらないのだろうか。6ヵ国もの首脳が集結する葬儀である。確かに突発的に葬儀は発生するものだが、逆に言えばいつ起きたっておかしくない事である以上、平時からオペレーションの計画ぐらいは組んでいるものだろう。
そしてもちろん、アメリカ側の警備はテロ開始三十分ほどで全滅してしまい、主人公以外大統領を助けられる人はいないのだ。ゴジラに襲撃されたんじゃないんだからもうちょっと何とかならなかったのか。
くわえてもう一つ、本作は政治的側面からも疑問を感じる。そう言うと大げさだが、単純に主人公たちに共感出来ないのだ。犯人サイドの動機は「娘の復讐」というこの上なくシンプルな物で、復讐したくなるのも無理はないほどの残虐行為をアメリカ側から働かれている(復讐を肯定するつもりはないが、あくまで一人間として理解は出来る)。一方で犯人サイドも非人道的行為を世界的に働いている連中なので、そこから考えると許しがたいヤツらとも言える。
だったら「この世に単純明快な正義なんか無い」「俺にも子どもがいるから怒りに燃えるお前の気持ちはわからなくはない」とか、いろいろと言えることがあるだろうと思うのだが、本作では驚くべき事に、一切そういうフォローがない。
通常、犯人サイドに娘がいて、同時に主人公に子どもの描写があった場合、そういう犯人サイドへの思わぬ共感の前振りのためだと思うのだが(そのほうが物語に厚みと意味が生まれる)、本作ではその振りを華麗にスルーし、「アメリカの理想は1000年先も変わらん!」みたいな悪役みたいな事を言い始める。さすがに笑ってしまった。アメリカ万歳映画に見せかけて、全編皮肉を描くのが真の目的だったのだろうか。
いくら単純明快な娯楽を目指すとはいえ、現代で相対化された正義と悪を無邪気にスルーして勧善懲悪のお話作りをするのは、もはや罪とすら言えるだろう。どうしても悪を描きたいのなら懸命の努力で絶対的な悪を作り出してみるべきだ。非常に難しいけれど。あのラストシーン、モーガン・フリーマンともあろう人が何を考えながら演じていたのだろうか。