週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『イップ・マン 序章』★★★★☆

 

イップ・マン 序章 [DVD]

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日本が悪役だからといって観ないのは勿体ない王道アクション

  『ローグ・ワン』のテレビ放送をチラッと見て、ドニー・イェンの格好良さにたまらなくなり観賞。ゆったりとしたスタートの作品だったが、偉大なる主人公キャラクターの立ち上げとして完璧な作りだった。

 

 中国のとある街に住む武術の達人・葉問が、静かに過ごしたいにもかかわらずその圧倒的実力、そして辛く暗い時代によって闘わずにいられなくなってしまう、という物語。とにかく先に書いたように、主人公のキャラクターの見せ方がパーフェクトだった。

 バトル物というのはとかく展開が安直になりがちで、闘わせておけばOKぐらいに思う向きも多いかも知れないが、だからこそアイディアが必要になる。どうやれば主人公が、他の人間よりも強い人間に見えるのか。それをナチュラルに観客に見せられるのか。

 同じ武術を使い、飛び道具を使用せずに頭から終わりまで闘っている映画なのにどうやったら退屈させずに物語を進められるか。ただ殴り合っているだけの映画など、あっという間に飽きられてしまうのだ。

 

 その点、本作はあくまで感情を抑えた武術の達人である主人公が、時代の奔流に飲まれつつ少しずつ、感情を露わにし、闘わなければならない状況を一つずつ描いており、強者としての彼の偉大さを演出できている。

 のみならず、各バトルシーン内でのアクションの組み方、広げ方、くわえてただ闘うだけでない周囲の人物とのドラマも緻密に組み上げられている。バトルシーンを感情描写の手段としてきちんと使えている(意味の無い戦闘のための戦闘がない)、上手い作品である。バトル物少年漫画を描きたい人は、カッコイイ主人公の描き方の参考として是非観るべき。

 

 これだけの巧みな作品が、日本国内であまりプロモートされていないのは、悪役が日本軍だから、なのだろう。作中では当時、中国国内に進軍していた日本軍の将校らによる非常に残虐な行為が頻出する(本作の主人公は実在の人物で、日本軍によって家を奪われたのも史実)。

 しかしながら、登場する日本人キャラクターたちは薄っぺらなモンスターとしては描かれず、大物・小物の違いはあれど、あくまで「人間」として描かれている。メインの悪役である三浦の造形は、『地獄の黙示録』のカーツ大佐的な、身勝手ながら一方的な哲学が貫かれていて興味深く、ある種の魅力がある。安易な狂気の化け物にしなかったのは制作側の誠意と言える。

 

 また、日本人役を演じているのはいずれも日本人俳優で、日本に関する描写についても筆者が観た範囲では、不自然なところは見受けられなかった(もちろん正確な史実まではわからないが、あくまで日本語の使い方、キャラの立ち居振る舞いなどについて)。

 外国映画で日本語のセリフが出てくるときは『ブレード・ランナー』を引くまでもなく頭を抱えたくなる物がほとんどだが(『キル・ビル』すら酷かったのにはおそれいった)、本作の日本語のセリフは、きちんと日本語の演技として成り立つレベルになっている点で高く評価出来るだろう。

 

 ストーリー全体を貫く主題がもう少し明確なら見応えがもう一段階上がったと思うのだが(大いなる力には大いなる責任が伴う、だろうか?)、武術が人々の運命を変えていく様そのものが胸を撃つ。また、サブキャラクターが誰も彼もいい人物像なのも秀逸(主人公の友人である工場主や通訳、サブ悪役の北方武術の達人も面白い)。続編2作を観るのがこれから楽しみだ。