週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『T2 トレインスポッティング』★★★★☆

 

 人生を選び損ねた男たちの、20年ぶりの終点

 『ロッキー』シリーズのように、作中人物の経た時間と役者たちが経た時間が合致する作品はどうしたって深みが出る。多くの場合、俳優たちにとっても思い入れの強い作品である以上、普通では観られない熱演、そして人生そのものが刻み込まれたような濃密な内容を味わわせてくれる。

 『トレインスポッティング』の20年ぶりの続編、キャストも前作出演者は全員同じ人物が演じている。前作の時点で「どうしようもなかった」登場人物たちは、時を経てもう本当に、救いようもどうしようもなくなっていた。

 

 まず感じたのは監督、ダニー・ボイルの熟練ぶりだった。さすがハリウッドで二十年間傑作をとり続けていただけあって、前作とは比較にならない見事な作り。演出、映像美、テンポ、同時に明快さも加わり、よりいっそうエンタテインメントとして昇華されていた。前作では省かれていたタイトルの意味、さらに、物語そのものの意味。「人生を選べ」という言葉で象徴される、前作から一貫している作品の狙いは、より切実に胸に迫る。

 メインキャラクター4人は全員、スコットランドの街で何も出来ず未来も見えず、ただドラッグに溺れるだけのどうしようもない若者だった。けれど彼らにはまだ若さがあった。それが前作ラストシーンの、主人公の笑顔でもあっただろう。そこから20年。若さすら失った彼らは本当の意味で、取り返しのつかない状況に陥っている。

 

 そこにやってくるのは、20年間収監されていた最悪の友人。まるで過去そのものが襲いかかってくるかのようだった。主人公の逃亡から長い時間が経ったが、その間、彼らの関係性は凍り付いていたも同然だったのだろう。それが、ある種滑稽なきっかけとともに解凍され、動き出す。示されるのは、「20年間なんにも変わってない」という何一つ救いのない現実。

 しかし、合間合間に示される彼らの年齢、若者からの失笑、妻や子ども、親との関係から「それでも時間は経ち続けていた」という残酷な事実も突きつけられる。今回は中年太りの腹も突き出たオッサンたちがやっていることもあって、余計にコミカルに見えるところもあるが、物理的にも未来がない彼らには希望も何もない。

 

 そして実のところ、やっていることも起きることも劇中でも明示されているとおり、前作と大差ない。アラフィフのおっさんたちがナイフ振り回して追いかけっこしているのだ。何も変わらない、という愚かしさを突きつけるために20年という時間をクールに使い切った監督の感性はさすが。

 けれど、同時にはっきりと、そして何度も示されるのは、「こんなことはもう、終わりにしよう」というある種、穏やかな眼差し。それはもはや子どもではなくなった彼らだからこそ放てる、諦めと同時にある種の希望に感じられた。辿り着いたのは終点かも知れないが、またここから発車するかも知れない、とも思わせてくれる。

 前作を補足し、巧みに完結させてみせた、間違いなく、2作品セットで観て初めて完結する良作。