『スピード』★★★★☆
力業だがそれがいい、アイディアてんこ盛りで走りきるサスペンス
あらすじ:ラッシュ・アワーのLA。乗車15名を乗せた市バスに時速80km以下に減速すると爆発する時限爆弾が仕掛けられた! ロス警察のswat隊員ジャックが人質救出のために立ちあがる! (amazonより)
昔読んだ映画評論家の著作で、大体その人は文芸作ばかりを褒めていたのだが、珍しくアクション映画を賞賛していたので記憶していたのが、この作品。キアヌ・リーブス初期の主演作で、助演がサンドラ・ブロックとデニス・ホッパーという手堅い面子。
正直言って深みや人間性の掘り下げなどは欠片もないが、それを補ってあまりあるアイディアの奔流に溺れる快楽が、2時間ぶっ通しで詰め込まれている。
この頃のアクション映画の大作を観ると、『名探偵コナン』の元ネタと思われる話が散見されるので困る(笑)。『時計仕掛けの摩天楼』は『新幹線大爆破』が元だろうが、こちらの意識もあるだろう。原作でもバスジャック事件や爆弾魔事件は、描写に本作からの影響があったと思う。
こうした作品は、アクションだけで押し切ろうとしてもたいていの場合限界があるので、どこかに犯人の叙情的な描写とか、被害者のドラマとかを入れ込んで何とかするものだが、本作はそういう脇への色気が一切無い。とにかく、爆弾を核に据えたクライム・サスペンスのみで乗り切っている。そのために、多種多様なシチュエーションで緊張感がリセットされないよう、状況をどんどん進めているのが素晴らしい。
大体は、中核になるシチュエーションを思いついたらそれをいかに続けるか、と考えてしまうのだが、潔いくらいのこの作品では次、次へと話を進めていく。しかも、中途半端に終わらせるのではなく、それぞれの状況で起こりうるアクションを限界までやりきったあとに次の状況へと移るので、物足りなさもない。徹底して考え抜いたことが観ていてもよくわかる。
また、爆弾を扱った作品は、逆に言うとほとんどのシーンでは爆発が起きない、ということでもある。その退屈さ、物足りなさが起こらないように、各シーンに中程度の危険をちょうどよいバランスで配置しているのも上手い。
アクションが面白くなるのは、観客が本当にどうやって解決したらいいかわからない事態が発生しているときのみである。つまらない泣かせのドラマや、解決するに決まっている感情的な喧嘩沙汰などは最小限に収めてしまえば充分。
もちろん、先にも書いたように厚みのある人間など1人も出てこない。どれもこれもテンプレ的な「善良なる市民」ばかりで、面白みは全く無い。主人公もヒロインも同様である。セリフは気の利いたことを言わせようとして結果、シチュエーションに合わなくなっているし、そもそもこれだけの緊張感、命のかかった状況で笑顔とジョークが飛び交うというのはどうにも違和感がある(いくらアメリカとはいえ)。
しかし一点、デニス・ホッパー演じる悪役の演技は終始、凄まじい迫力があった。ぱっと見、冴えないおっさんにしか見えない彼が完全にサイコパスの犯罪者らしく見えてしまうのは、さすがの演技力と感じる。若々しいキアヌ・リーブスの身体を張りに張ったアクションシーンも圧巻。楽しく手に汗握れる不滅の佳作。