週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『グリーンブック』★★★★☆


【公式】『グリーンブック』3.1(金)公開/本予告

想像外の軽妙なコメディ、しかし背負うものは重く大きい

あらすじ

1962年。天才黒人ピアニストは、粗野なイタリア系用心棒を雇い、〔黒人専用ガイドブック<グリーンブック>〕を頼りに、あえて差別の色濃い南部へコンサート・ツアーへ繰り出す。旅の終わりに待ち受ける奇跡とは? まさかの実話!(公式サイトより)

 アカデミー作品賞受賞、ということで評判を聞きつけて観賞。ただ、事前の賞関係レースで、スパイク・リー監督が批判的な言葉を吐いていたことは聞いていた。

 実際に観賞してみると、その言葉も無理もないかな、という感もある意外なほどあっさりした物語・・・・のようにも感じられるが、内包している問題の深みはかなりある。そんな重さをあえて感じさせず、楽しく魅せてくれる物語。

 

 基本的には実話ベースだが、あくまで映画であり、また、脚本を書いたのは主人公二人の片方・トニーの実子ということもあり、ある程度のバイアスは掛かっている模様。

 黒人と白人の60年代アメリカにおける対立と和解を描いた物語、というのはあらすじを見てもわかるとおりなので、「そういうお話」を想像しながら見始めるが、物語は荘単純ではなかった。まず、明快な対立は描かれていない。

 わかりやすく「ふたりの対立」⇒「激昂」⇒「救済」⇒「友情」みたいな、きっかけが具体的な展開ではなく、結構早い段階でお互いに対してそれなりの、人間らしいリスペクトは生じる。しかしそれでもどこかぬぐえない「偏見」という、現代でもよくあるどうにもしがたい感情・感覚がコミカルな方法で描かれている作品だった。

 

 なにしろ、主人公のピアニスト、ドン・シャーリーはクラシック音楽ベースのジャズピアニスト、という腕も立ち知性もあるタイプの人物で、演奏を聴けば一発で「天才だ」とわかるレベル。なので、粗野で黒人に偏見を持っている主人公・トニーも一目置かざるを得ない。その意味で、シンプルに黒人差別を描く物語とは違ってくる。

 個人的にクラシック音楽をよく聞くのでそのあたりの事情は非常に理解出来るのだが、黒人のクラシック演奏家は現代でも(自分の知る限り)ほぼ存在しない。アジア人もラテン系もいるのだが、黒人は全然いない。指揮者ではごく少数存在するが、それ以外の演奏家はほとんど見当たらない。いても金管楽器奏者が大半。ピアニストは、技巧はあってもジャズピアニストになっていく・・・・もしくは、ならざるをえない。

 つまり、彼は自分の軸足、地盤になる場所から排除されざるを得ない、マージナルマンということになる。この主題は、終始描かれ続けていく。

 

 また、トニーもイタリア系移民ということで、アメリカで主流でいられる人物ではない、というのもミソだった。トランプ政権下で浮き彫りになっている「下流白人」の被害者意識も題材の一つに練り込んである。どうあがいてもろくな暮らしが出来る気がしない、その日暮らしの人生の中で、金持ち上流階級の黒人と出会う、という非常にレアなケースを描いているのだ。

 そんな彼らが、長旅の中でちょっとずつ、親しくなっていくストーリー。実はこういうタイプのお話はとても描くのが難しい。先にも書いたように、明確な結節点を設定して、そこを乗り越えるとゴールに近づいていく、という構成を組んだほうが、失敗はしにくいのだ。少しずつ距離を縮めていく、という構成だと、ちょっとしたバランスのしくじりで映画全体が台無しになりかねない。本作では、この舵取りに成功している。

 

 というわけで、気の利いた小品、でありながら重層的な主題を持っている佳作であり、また、主要登場人物にイヤな人がいない、という観客にストレスを感じさせにくい形式も相まって、非常に観やすい作品なのだが、同時に、「作品賞か?」という疑問は少し、残る。

 個人的な感覚で言えば、『ROMA』や『ファースト・マン』のほうが重厚で興味深い主題を扱っていると感じる。読み深めに耐える作品強度としても、本作は決して強いとまでは思えない。クリスマスシーズンに観る心温まるいい映画、としては十二分に薦められるのだが、それ以上になり得るかというと正直言って、疑問は残る。やはり政治的な事情が絡んでいるのだろうか。

 

 スパイク・リーの『ブラック・クランズマン』も早く観たいな、と思いつつ、本作もよかった。良作。