週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『スパイダーマン:スパイダーバース』★★★★★


映画『スパイダーマン:スパイダーバース』本編映像<スパイダーマンは1人じゃない編>(3/8全国公開)

変化球かと思いきや超速球直球、王道の一品。新たなスパイダーマンの可能性が拓けた

あらすじ

ニューヨーク・ブルックリンの名門私立校に通う中学生のマイルス・モラレス。実は彼はスパイダーマンでもあるのだが、まだその力をうまくコントロールできずにいた。そんな中、何者かによって時空が歪めらる事態が発生。それにより、全く異なる次元で活躍するさまざまなスパイダーマンたちがマイルスの世界に集まる。そこで長年スパイダーマンとして活躍するピーター・パーカーと出会ったマイルスは、ピーターの指導の下で一人前のスパイダーマンになるための特訓を開始する。

 確か『ヴェノム』の感想を書いたとき、エンドロール内で披露された本作の予告の印象が最悪で、「絶対観ない」と言い切っていた気がする。なにしろ映画観終わった後なのに中途半端な無関係アニメの一部分がえらく長く、5分近く流されたのだから興ざめもいいところで、「スパイダーマン好きなんだから観るだろ」といわれているような気になって腹が立ったので「観てたまるか」という気になったのだ。

 しかし、アカデミー賞の結果やら、周囲の映画好きの感想やらを観て行くに、だんだん無視も出来ないな、というか面白そう、という気になってきて、ようやっと観賞。

 3Dアニメながら2D的な良さを徹底して導入した新時代のアニメーション作品。このあとのアニメは本作を無視しては創れないだろう。一方で筋書きは、意外なほど王道中の王道で、マニアとライトファンの両方へ目配りがなされた良作。

 

 まず、『ヴェノム』内予告はなんであんなシーンを選んだのだろう(笑)。まあ、スパイダーマン大好きな人からすると「●●が死んでる・・・・!?」となるのかもしれないが、そこまでのファンじゃない人間からすると「まあそういう話もあるだろ」としか思えない。場面としてもそんなにパッとしないし。

 言い換えると、あのシーン以外はとにかく、かっこいい。頭から終わりまで「カッコいいとはこういうことさ」と言わんばかりのクールな表現の嵐。映画は「気持ちいい速度で新しい情報が出てくる」のが良作なのだが、まさに、頭がパンクする直前のギリギリのラインで、わかりやすく斬新な内容が描かれ続ける。ありがちなネタで退屈したり、だらだら喋っている説明セリフでうんざりする瞬間は一秒もない。

 実際、120分以上の作品だったが、体感としては90分くらいだった。もっと観ていたいくらい。

 

 3DCGで創られていて、画面内は恐ろしいくらいのオブジェクトが動きまくっており制作の工程を想像すると頭がおかしくなりそうだが、同時に2D表現の面白さ、よさ、たとえばペンで描いたような平面らしく見える効果を加えたり、版ズレ(印刷時に特定の色だけズレて印刷してしまうこと)を意図的に再現したりと、観ていて気持ちよくなる遊びが山ほど詰め込まれている。

 そう、どこをとっても「気持ちいい」を優先しているように感じられた。テンポの良さ、展開の早さ、音楽の格好良さ、キャラの魅力。お約束や決まり事の類いは全部、気持ちいい表現に書き換えられていく。それは作品冒頭で主人公が描く、グラフィティアートが象徴的に表現しているように感じる。ルールよりも「格好良くて気持ちいい」ことのほうが大事なのだ。

 バリバリのセンスによって、面白くってカッコよくて観たことないアイディアが敷き詰められ、しかも過積載にはなっていない。間違い・嘘・矛盾・意図的な誤謬は全部(面白かったら)OK。この感覚、『キルラキル』あたりに近いかも知れない。実写版には出来ない、(そもそもが主観的感覚によって構築されている)アニメーションだからこそ出来る表現なのだ。

 

 ところが一方で、筋書き自体は驚くほどに王道。少年の成長譚。マルチバースから無数のスパイダーマンたちが・・・・という意表を突いたアイディアながら、やっていることは実は極めてシンプル。「自分と同じ存在が大勢いる」というシチュエーションからならもっと、異例の展開や感情を導き出せそうなのだが、結局それはやらなかった。正直言ってその点だけは、若干物足りない。「それはこのお話でないと描けないこと?」という疑問は感じた。

 ただ、表現として斬新な部分が非常に多いので、バランスを取るなら話はベタなぐらいでちょうどよかったのだろう。これで「私は・・・・誰だ」的な、ミュウツーみたいな悩みを吐露していたらわけわからなくなっていたおそれもある。続編やスピンオフ以降では、より踏み込んだネタに向かって欲しい。

 

 コメディ要素もたっぷり、メタ的なネタも満載。そしてスパイダーマンのことをよく知らない(自分のような)人間も、かわいい&かっこいいキャラたちに大満足。尺が足りていなくて一部のスパイダーマンは描き切れていなかったので、さらなるアニメシリーズの展開を期待したい・・・・というか、絶対すると思う。

 ソニーピクチャーズはスパイダーマンの権利を保持し続けている一方で、MCUに加入する以外にスパイダーマンシリーズを拡大することができず、宝の持ち腐れ状態じゃないだろうか(ヴェノム系のヴィランの拡張だって、本丸のスパイダーマンとの絡みがしづらいので限度があるし)、と思っていたが、ここで見事に、スパイダーマンだけでシリーズ展開していく端緒を拓いてみせた。

 

 また新しく金をむしり取られ続けるユニバースが生まれてしまうのは個人的にはしんどいが(笑)、でも、グウェンとかペニーとかノワールのスピンオフは観たいもんなあ・・・・。あと、いつかトム・ホランドの実写版ともクロスオーバーして欲しいです(この設定なら可能だし)。