週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『現地(にいない)特派員』★☆☆☆☆


スペシャル・コレスポンデント -現地(にいない)特派員ー

せっかくのアイディアを台無しにする詰めの甘い脚本、テンポの悪い芝居と編集

あらすじ

パスポートを失くしたラジオの報道チームが、NYに潜伏しながら最前線レポートを捏造することに。嘘が嘘を呼び、どんどん深みにはまっていく。(Netflixより)

 ネットフリックスオリジナルで以前からあらすじが面白そうなので気になっていた作品。尺も短めで気軽に観れる、のだが、実際に観賞してみると実に退屈で困ってしまった。

 内容はあらすじの通り、「諸事情で現地に行けなくなってしまったラジオ局の特派員が、南米の戦地にいるかのように見せかけるコメディ」である。これを聞くだけでも様々なアイディアが浮かんできそうだ。

 音やセリフで巧みにごまかし、ハプニングもなんとか取り込んでリアルな中継を行い、バレそうになって冷や冷やすることも多数・・・・でも最後には自分たちの浅慮を恥じた主人公たちが、この状況を打開して一歩人間として成長する、みたいな。そういうのを観れる・・・・と思っていた。

 

 しかしながら、こういう期待しているネタはまったく、出てこない。そもそも「バレそうになって冷や冷やする」くだりすら、ない。これはもう異常である。この「無茶な秘密を隠し通す」系のコメディだったら、それをやらないというのはもう根本的に笑いがわかっていない人間としか考えられない。

 音だけで何とかごまかそう、なんて笑いのネタとしてはもういかようにでもできる。ちょうど発売したばかりの『波よ聞いてくれ』というラジオ局題材のコメディ漫画があるが、 

波よ聞いてくれ(6) (アフタヌーンKC)

波よ聞いてくれ(6) (アフタヌーンKC)

 

  本作などはこの手の笑い満載である。本当はやっていないけれど、音だけは巧みに再現して何とかごまかす・・・・というのは、音の深刻さ、聞いている人の印象と、実際にやっていることのくだらなさの落差が最高に面白くなるはずなのに、そういうネタはことごとくスルーしていく。

 いいアイディアが根本にあっても、まともに転がさず、考えを深めず、表層をなぞっていくだけで思いつきを列挙していく程度なら猫に小判、豚に真珠で何も面白くない。

 

 そしてその代わりにあるのはなぜか、だらだらとした面白くないセリフの応酬と、性格の悪い主人公の妻が暴走していく様の描写。これがもう、本当に面白くない。

 主人公を匿ってくれているレストランのオーナー夫妻も、メキシコ移民として描写されているのだが、なぜか異様に頭悪く描写されていて、しかもそれを補えるような魅力が一切出てこない。彼らの絡む会話は進みが阻害されてただイライラする。主人公たちも気の利いたことを言おうとしているのだろうがまったく言えておらず、どこかで観たような薄っぺらなジョークを連発するばかり。

 

 さらに主人公たちを差し置いてやたらと前に出てくるのは主人公の妻なのだが、彼女の暴走はアイディアとして悪くないにしろ、この作品の根本のネタとは全然別種のものだ。入れるなとはいわないが、その前にやるべき事が山ほどある。

 それに、実は現地に行っていない夫と遭遇するシーンがあるのだが、一番の笑いどころのはずなのに、演技を完全に間違えているので全く笑えなく仕上がっている。夫をだしにして成り上がろうとしていた彼女が夫をアメリカ国内で目の当たりにしたら卒倒するほど驚くはずなのに、全くリアクションがない。これは明らかに異常だろう。

 

 その上、後半部分に至っては根源だったはずのアイディアをぶん投げてなぜか、現地に向かう。そう、現地に居ないから面白いはずの主人公たちが、現地に向かうのだ。まあ行くなとは言わないが、これにしたってその前に、やれることをやれるだけやりきったあと、最後の手段としてでないといけない。いや、それ以前に現地に行けるんだったら最初から行けよ!

 どこを切り出しても失敗している。制作者はまるきり笑いがわかっていないとしか思えない・・・・のだが、どうやら『The Office』のイギリス版を創った俳優が脚本兼監督兼助演をしているらしい。彼個人の笑いの趣味とこのベタベタのお笑いネタが、マッチングしなかったのだろうか。