週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『バンブルビー』★★★★★


「バンブルビー」予告編 (2018年)

十代の子には人外の親友がいるべきだ。超正道派SFジュブナイルの佳作。

あらすじ

父親を亡くした悲しみから立ち直れずにいる少女チャーリーは、18歳の誕生日に小さな廃品置き場で廃車寸前の黄色い車を見つける。すると突然、その車が人型の生命体へと変形。驚くチャーリーを前に逃げ惑う生命体は、記憶と声を失って何かに怯えていた。チャーリーは生命体を「バンブルビー(黄色い蜂)」と名づけ、匿うことにするが……。(映画.comより)

 トランスフォーマーシリーズについては、だいぶ前に1作目だけ観て、「ふーん」というぐらいの感想しか抱いていない。90年代のアニメシリーズも観ておらず、おもちゃも遊んでいないので何の思い入れもなく、映画はとにかくよく爆発して派手だった、というだけの印象。ストーリーは全くといっていいほど覚えていない。

 評判を聞きつけて本作を鑑賞したが、80年代~90年代前半にスピルバーグ界隈で多く在ったジュブナイルSF冒険活劇の直球にして、魅力的なキャラクターの描き方を熟知した監督によるコミカルで心温まるシーン連発のウェルメイドな作品だった。

 ツイッター上で「子ども時代はこういう作品を観て育つべきだ」という意見を見かけたが、全くその通り。筆者は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観たときの喜びを思い出した。

 

 ストーリーは『ET』に近いだろうか。「異星からやってきた天然の生命体をこっそり家に匿い友情をはぐくむ」というのは、もうワクワクするしかないだろう。一応舞台は1987年だが、主人公の人物造形はすこぶる現代的。相手役になる男の子は出てくるが、そこまで恋愛描写をだらだらと突っ込まずさわやかな青春を描いているのもバランス感覚が素晴らしい。なんとなく、『魔女の宅急便』のキキとトンボを思い出す。

 また、こうした物語ではしばしば、「家族の大切さ」とか「友情から来る絶叫」みたいな、大人が考えがちな愚にもつかない倫理の説明シーン(しかも真新しさのない説教がついてくる)がベタベタと塗りつけられがちだが、本作にはそうした部分が一切ない。あくまでティーンエイジャーの視点から、セリフや説明に頼らず、閉塞感ある日常からの脱却が冒険の中で描写されている。

 

 自分のことしか見えていなかった十代の主人公が、新たな友のために闘うことで、広い世界へ目を開いていく王道のストーリー。しかしながら、各シーン、展開、登場人物、アクション、セリフ、どこをとっても手抜きはなく、アイディアが盛りだくさん。

 ほんの一瞬しか出てこない登場人物も、現れた途端にオリジナリティあるキャラクターとして人物像が浮かび上がるのは、監督や脚本家がきちんと人間を見て、ものを創っている人たちだからだろう。主人公と敵対する大人たち、両親や軍の関係者も、薄っぺらな悪役としてではなく、あくまで人間として描かれている。

 

 そしてなにより、バンブルビーが終始かわいい! このためだけでも見る価値がある。巨大な鉄の塊であるはずの彼が、愛らしい犬、そして意志を持った友に見えてくるのは、やはり監督がアニメーション出身だからこそなせる業だろうか。ほんのちょっとした動き、手や指先から猫背のカーブ、歩き方の一つ一つまで、「こんなもんでええやろ」で済ませた部分は全く無い。

 ここまですることで、初めてCGがキャラクターになる。考えてみれば、ストップモーションアニメの監督は、トランスフォーマーのようなCGでキャラクターを動かしてなんぼの作品には大いに向いているのだ。

 

 少年少女時代には、人外の親友が居て然るべきだし、もしいなかったとしたら、本作のような秀逸で、世界を肯定してくれる物語が必要だろう。オススメです。