週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』★★★★★


映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』本編映像

映画史上最大クラスの「後片付け」。未来へ繋がる橋渡しの1作

あらすじ

 最強を超える敵“サノス”によって、アベンジャーズのメンバーを含む全宇宙の生命は、半分に消し去られてしまった…。大切な家族や友人を目の前で失い、絶望とともに地球にとり残された35億の人々の中には、この悲劇を乗り越えて前に進もうとする者もいた。だが、“彼ら”は決して諦めなかった。(公式サイトより)

 

 とりあえずネタバレなしを書いたあとで、ネタバレありを書いていこうと思う。ちなみに筆者は、過去のMCU作品は全て鑑賞している。

 ただ、この作品感想の書き方が難しい。このブログを読んだから観ようと思った、という人はたぶんほぼゼロで、観る人は初めから(一年前から)見るに決まってるし、観ない人は今さらどうこうもないだろうと思うからだ。

 

 そんな状況であえて書くとすれば、本作はおそらく映画史上でもトップクラスの難事である。スターウォーズの続編に匹敵するレベルだろうが、可能な自由度はスターウォーズよりかなり低い。MCU(マーベル映画ヒーローシリーズ)は各作品世界観や物語の枠組みが異なっている上、基本的に全年齢向けなので極端にダークなことも出来ない。

 その上、今回は1年前に事実上の前編を公開したあとで、丸1年間、世界中の数億人のファンがありとあらゆる予想をした状態での完結編公開である。その予想の隙間をかいくぐり、意表を突き、納得させ、過去作の伏線も回収し、かつ、無数に登場する各ヒーローのファンたちがみんな満足するような展開&落としどころを用意しなければならない。あと、もちろんお話として面白くないといけない。

 さらに、キャストは誰も彼も他の映画なら主役クラスのハリウッドの大物ばかりでスケジュールを揃えるだけでも難儀、CGも画面の隅から隅まで埋め尽くし、シナリオも複雑怪奇で把握するだけでも困難。もちろん、娯楽映画としてギリギリ許される尺の中に収めなければならない。ファンの期待は史上最高クラスに高まっている上に、絶対裏切れない。おそらく、これ以上厳しい条件の映画は考えにくいだろう。

 

 そして、本作の制作陣、MCUのプロデューサーのケヴィン・ファイギと本作監督のルッソ兄弟は、以上の困難を全て乗り越え、やり遂げたのだ。

 ネタバレなしでいえることはここまでだろう。以下、ネタバレありで書きます。

 

 

 

 

*************以下、ネタバレあり****************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここからはネタバレありで書きます。

 

 もう言ってしまえば「タイムトラベル」である(笑)。いったいどうやって前作の絶望的な状況を打開してくるか、筆者も一ファンとしていろんなサイトを眺めてありとあらゆる予想を見たが、これはもう、最初期から言われていた、というか言われすぎていて逆にないだろう、ぐらいに扱われていた案だった。

 それはそうだ。タイムトラベルを可とするなら、何が起きたってだいたいOKになってしまう。実はこの案、諸刃の剣なのだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でもそうだったが、移動に掛かる燃料が入手困難だとか、条件を付けなければタイムトラベルを解決手段にするのは危険だし、行った先のミッションもほどよく難しくしないと面白くはならない。

 タイムパラドックスも非常に複雑な上、上手に回避したところでお話として大して面白くはならない、という厄介な問題である。なので、本作では時間を移動するものの、過去改変ではなくあくまで過去からインフィニティ・ストーンを取ってくる(し、使い終わったら戻す)という最小限の使い方に抑えている。

 

 そして、先に書いた地獄のような全世界のファンからの予想と期待というダブルパンチに耐えるために、本作の制作陣がどんな手を取ったか。

 

「もっともシンプルな手段を取って前作からの疑問をあっという間に解決させてしまい、物語をその先に進めることで、予想を超えていく」

 

という方法だった。

 前作からのいわゆる「引き」としては、

・サノスをどうやって倒すか

・宇宙空間にほったらかされたアイアンマンをどうやって地球に戻すか

・指ぱっちんでいなくなった半分の生命体をどうやって戻すか

キャプテン・マーベルとはどうやって出会うのだろう

といったあたりで、この一年ほどのファンの予想も、ほぼこのあたりに集中していた。なので、逆に言えば観賞前にファンが考えていたことはここ止まりでもある。

 

 これらを、

・弱ってるのですぐ殺す

キャプテン・マーベルが持って帰ってくる

・タイムトラベルが使えるようになる

・もう出会ってる(『キャプテン・マーベル』エンドロールで描いたからOK)

とおそろしいほどあっさりと、開始20分以内(たぶん)に回答を用意してしまう。そして、「それはいいとして」とでも言わんばかりに次の展開に進められてしまえば、もう観客としては予想してきていない(予習してきていない)展開に突入してしまい、もう制作者に振り回され続けるしかない状態である。まんまとやられてしまった。

 

 意外性を求められがちな引きというのは日本の漫画でも海外ドラマでも求められるものであり、しかしながら意外性というのは時間が掛かれば掛かるほど予想され尽くしてしまって驚きが減じてしまう。

 例を出すなら「黒ずくめのボスの正体」「『ひとつながりの財宝』の正体」あたりだろう。そりゃもう、予想だにしていない答えなど出しようがない。人海戦術で先を越されているのだから(「黒ずくめ」については答えが出たが、案の定予想の通りの人物だった)。なので、強烈な「?」からの驚きに期待感を煽るのは非常に危険なのだ。

 その解決策が見事に示された……というか、やらなきゃいけないことがめちゃくちゃいっぱいあるからここに尺を割いていられなかっただけかも知れないのだが、見事だった。

 

 この恐ろしいほど濃密な時間の中にも、喜劇あり悲劇ありの振れ幅の大きさは、過去作からまったく変わっていない。『GotG』や『マイティ・ソー/バトルロイヤル』で取り入れられたハイテンションなコメディの感覚もありつつ、シビアな闘いの場面も悲しみのシーンもふんだんに取り込まれ、しかもそれぞれのシーンが早足ではない。

 ついつい運びそのものを焦ってしまいそうになるが、監督たちはこのあたりのテンポに関する感覚が素晴らしく、明確に切るべきところを切り、残すべきところは情感たっぷりに演出している。遊びの要素や過去作へのオマージュも忘れておらず、ファンサービスも満点である。

 

 そして、シリーズいったんの完結作として、いくつかの落としどころが描かれる。シリーズ最初期から登場している面子の、十年以上にわたる旅の終着点として、過度にエモーショナルにもせず、しかし充分に美しい最後が描かれていた。

 ソー役のクリス・ヘムズワースは以前から、もう少しこの役をやりたいと言っており、本作でもキャラクターが更に自由度を増して爆笑を誘っていたのでぜひ続編をやっていただきたいが、今回で卒業と以前から発表されていたアイアンマン=ロバート・ダウニーjrとキャプテン・アメリカクリス・エヴァンスや、渾身の演技でまさにやりきったという万感の思いが伝わってくる。

 アイアンマンはこのシリーズを最初に牽引してくれた立役者だからこその、とどめの一撃。そしてキャップは、唯一の心残りを解消し、「ヒーローでなかった一生」を味わわせるというSFならではの小粋な演出。見事だった。

 

 のみならず、両キャラクターの未来を予感させる演出――現アイアンマンと同じようにガレージを愛し、喜んでマスクを被る彼の娘と、キャプテン・アメリカから盾を引き継いだファルコンが、2代目ヒーローを期待させてくれるのも喜ばしい。

 新キャプテンがアフリカン・アメリカンというのはまさにアメリカの歴史を感じさせてくれる。プラスして、おそらく2代目アイアンマン(アイアンウーマン)が登場出来るのは早くて十年後ぐらいだろうが、きっとケヴィン・ファイギはその未来まで見通しているのだろう。

 

 まあ細かいことを言えば「なかなか力業だな」と思った部分ももちろんなくはないが(笑)、それら全てを些末なことと思わせてくれて、三時間十分というおそるべき長丁場を一瞬も飽きさせずに観られたことに感謝。

 まだまだこのシリーズにつきあわなければならないのだろうなー、と思いつつ、ロバート・ダウニーjrとクリス・エヴァンスの、そしてルッソ兄弟のこれからの新作にも期待しつつ、今日は充実感とともに眠れそうだ。