週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ザ・バニシング 消失』★★★☆☆


映画『 ザ・バニシング−消失−』予告編

じわじわと効いてくる絶望。公開当時に観たかった。

あらすじ

オランダからフランスへ車で小旅行に出がけたレックスとサスキアだったが、立ち寄ったドライブインで、サスキアがこつ然と姿を消してしまう。レックスは必死に彼女を捜すが手がかりは得られず、3年の月日が流れる。それでもなお捜索を続けていたレックスのもとへ、犯人らしき人物からの手紙が何通も届き始める。(映画.comより)

 ヒーロー映画観すぎの反動で、マイナーな昔の映画を観たくなり平日夜に観賞。キューブリックが「今までに見た映画の中で一番怖い」と感想を述べたことが大きくうたわれていたので、気になっていた。

 観てみると、期待通りのヨーロッパ映画らしい不穏で静か、そして綺麗な映像。不安と「厭な気持ち」に絶妙に襲われる良作・・・・なのだが、この時代だからこその「未経験の衝撃」はすでに失われてしまっている。それがよいことなのか残念なことなのかは悩ましいところなのだが、その結果として、単なる衝撃に終わらない深い絶望が、身体に染み渡ってくる。

 

 非常にシンプルな物語なので、ほぼほぼあらすじの通りの内容。終始頭に浮かび続けるのは「なぜ」という問い、そして「何が起きた」という主人公と同じ疑問。ヒロインが絶妙に愛すべき、愛らしさと美しさを兼ね備えた人物なので、彼女がいなくなったときの喪失感は、まるで画面から太陽が居なくなったようにすら感じられる。実際、画面の色調はヒロインが居るときと居ないときで全く異なっていた。

 そして執拗に見せつけられる、悪人の動き。ハリウッド映画のようにわかりやすく不気味に演出されるのではなく、ひたすらに普通の人物として描かれる。この普通さは、映画全編を通して変わらない。ヒロインが失踪した時も、劇的な描写は一切無い。現実に人が居なくなるときはこんなものだ、という事実を突きつけられる。

 

 ただ、本作は1988年、『羊たちの沈黙』以降のサイコサスペンスより前の作品であり、単純な「衝撃度」に期待しすぎてしまうと肩すかしを食らうだろう。筆者もアオリにアオラれたポスターや予告のコピーで過度に期待してしまったのが残念だった。おそらく、公開当時は想像を超えた展開だったのだろうが・・・・。

 特に、犯人の犯行そのものについては(ネタバレは避けるが)とある作品で同様のことを行っており、そちらのほうがずっと衝撃的で絶望的だったので、オチ自体のアイディアに過度な期待を寄せるべきではないだろう。売り文句にしたくなる気持ちはわかるが、劇中の犯罪行為を売りとして前面に出しすぎると、間違った形で期待が上がりすぎてよろしくない。

 

 それよりも、映画全体を通して描かれる、非常に純粋な(ある意味、純真な)悪意は美しくすら感じられる。ヘミングウェイの短編を読んだあとにも似た、素っ気なさが心に残った。小説『模倣犯』や映画『悪の法則』でも描かれていたが、本物の犯罪にはドラマ性などなく、救いもカタルシスも、意味すらもないに違いない。