週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『ディザスター・アーティスト』★★★★☆


The Disaster Artist Teaser Trailer #1 | Movieclips Trailer

「いつか何かが出来るはず」という夢の果てに出来た"駄作"の価値とは

あらすじ

“史上最大の駄作”としてカルト的人気を集めた2003年製作の映画「ザ・ルーム」(日本未公開)の製作過程を、「127時間」などの俳優ジェームズ・フランコの監督・主演で映画化。1998年、サンフランシスコ。俳優を目指す19歳のグレッグ・セステロは、演劇クラスでトミー・ウィソーという風変わりな男と出会い、その型破りな言動に興味を抱く。同じ夢を目指す仲間として意気投合した2人は、俳優としての道を切り開くべく一緒にロサンゼルスへ引っ越すことに。しかし現実は厳しく、2人とも成功とは程遠いまま月日だけが過ぎていく。しびれを切らした2人は、自分たちで映画を制作することを思いつき、実行に移すが……。(映画.comより)

 この映画、実話であってどういうことが現実に起きたかを知ったあとで観たほうが、おそらく面白いだろう。ウィキペディアで『ザ・ルーム(2003年の映画)』の項目をざっくりとでも読んだほうがいい(2015年の映画『ルーム』ではない)。

 上記のあらすじの通り、謎の男が多くの人を集めてわけのわからない映画を撮り、あまりのわけのわからなさにファンがついた、という実際に起きた出来事を題材にした映画である。日本で言えば『シベリア超特急』と大体同じだ。

 

シベリア超特急 コンプリート DVD-BOX

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  コンプリートボックスが出ていたとは知らなかった。

 芸人にたとえればコウメ太夫あたりかもしれないが、異常なまでにダメなものは一周回って味になってくる。もちろんわざとやっているのではダメで、ガチンコで面白いと思って作っていないと興ざめである。

 

 本作はアメリカでのそうした映画制作を題材にしている。本当にあった出来事だけあって、前半の痛々しさはかなりのもの。個人的にそういう描写を観ると共感性羞恥にやられるのでなかなかしんどかった。映画俳優になりたい二人がどうしても上手くいかず、嫉妬に駆られ、自分たちで何も知らないのにプロのスタッフを金で集めて映画を撮り始める。苦難を乗り越え、最終的に作品はできあがる。

 ただ、こういった物作り系作品にしばしば観られる流れ(『僕らのミライへ逆回転』や『カメラを止めるな!』)のように、「次第に情熱が周囲の理解を呼んでなんだかんだで良作ができあがる」というような感動的なことは、全く無い。現実にもそんなことは起こらなかったのだから当たり前である。

 

 それではどうやってまとめているのか。言ってしまうと、上記のような類作よりも遙かにビターである。現実同様、駄作はあくまでも駄作であり、奇跡が重なって名作になることなどない。創ったものは創ったとおりにあとに残る。

 けれど、本来思っていたのと全く違う形であっても、愛されるかも知れないし、価値を生み出すかも知れない。悲惨で歪なそれを受け止められるのか、自分の思い描いていた理想と違う形になっても、自分なりに認めることが出来るのか。1人の人間の人生のようかも知れない。

 

 また、ものを創ったことがある人は皆わかると思うが、どれだけ周囲から滑稽に見えても、本人は本心から傑作だと思っているものである。本作の主人公、トミーもふざけているのでもバカなのでもなく、本気でいいものが出来る、出来ている、自分の脚本は素晴らしいと思っているのだ。

 そして、もしかしたら自分もトミーかも知れない、とは誰でも疑いを抱く。自分が作っている、あるいは作ろうとしているものは、実はとんでもない駄作かも知れない。周囲から観れば失笑ものの意味不明な品かも知れない。それは自分自身からはわからないことなのだ。それでも作り続けることに価値はあるのか。いや、それでも作り続けるしかないのだろう。

 

 「頑張っていればいつか必ず」なんてことはない世界である。それは劇中でも言及されている。夢見ていたような成功は永遠にやってこないかもしれない。その可能性のほうが高い。けれど、生み出したものはきっと何かを与えてくれる、のだろう。それだけでも、続ける価値はあるのかも知れない。