週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『新聞記者』★★★☆☆


松坂桃李&シム・ウンギョンW主演! 前代未聞のサスペンス・エンタテインメント/映画『新聞記者』予告編

やりたいことは山ほど在ったが最終的に描こうとしたのは何か、もう一押し整理すべき

あらすじ

東都新聞の記者・吉岡エリカのもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、強い思いを秘めて日本の新聞社で働く彼女は、真相を突き止めるべく調査に乗り出す。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをコントロールする任務に葛藤していた。そんなある日、杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、神崎はその数日後に投身自殺をしてしまう。真実に迫ろうともがく吉岡と、政権の暗部に気づき選択を迫られる杉原。そんな2人の人生が交差し、ある事実が明らかになる。(映画.comより)

 日本映画では近年だとかなり珍しい、実話に基づいた政治系サスペンス映画。ハリウッドだと年に数本公開される重厚な作品があるが、まして現在進行形の政治問題について扱うことは映画としても稀少だろう。

 作品の題材上、様々な側面で毀誉褒貶を見かけ、筆者自身も一通り劇中で扱われている事件や問題については知っているものの、ネットニュースで読める以上の知識はない。なので、政治的文脈で正確に読み解くことは出来ない。あくまで映画作品としてみたときにどうか、という感想を以下に書く。

 

 まず、よかった点として日本映画特有の「やたら叫ぶ人」が出てこなかったのは評価出来る(笑)。些細なようだが、エリートが劇中に登場しているのに職場で絶叫を繰り返していてとても優秀に見えない、という幼稚な描写が邦画では頻出するので、この題材だとそうしたシーンがないだけでもかなり安心してみていられた。

 主演の新聞記者役の演技も真に迫っており好印象、その他、キャストの演技については松坂桃李の焦りの芝居(なぜあんな頻繁に息が荒くなるのか)以外はきちんと大人向けのドラマとして観ていられた。それだけでも実写邦画としては及第点と感じられる。

 

 一方、演出面、脚本面では気になるところが散見された。演出については残念ながら邦画のよくあるやつ、「パソコン使ってるヤツは暗い部屋でディスプレイに照らされてる」の法則を残念ながらなぞってしまい、内閣情報調査室はなぜか天井の照明を付けない人々になってしまっていた。幹部の部屋もやたらと自然光を取り入れていて薄暗い。何か厭なことでもあったのだろうか。

 新聞社の描写もなぜか同様で、やたら薄暗い。編集業務は目を使うので深夜でも明るく電気をつけて仕事をしているのが当たり前で、昼なんか余計にそうなので、ただ「深刻な雰囲気を出す」ためにやたら照明を落としているのには違和感しかなかった。主演二人の「焦るとはぁはぁ」もそうだが、記号化した表現を使わなくても緊張感を出す方法を考えるのが演出だと思う。

 

 一番気になったのは脚本で、果たしてこの映画は何を描こうとしている作品なのか、という点である。劇中で起こる出来事はどれも実際に発生した事件とほぼ同じか極めて似ている。しかし、本作はあくまでフィクションとして作られている。『ボヘミアン・ラプソディ』だって程度に差はあれど事実とは時系列や関係者を入れ替えているので、この距離の置き方自体は問題ない、と考える。

 ただ、こうした場合、フィクションの割合を高めるほどに「本当はこうだったらいいのに」の度合いが高まっていき、特に本作のような政治的・社会的問題を扱っていると願望を描いてしまいかねないので危険である(現実の憂さ晴らしとしてフィクションを作るのは内容が薄い)。小説でのif歴史のようになってしまう。

 

 本作中では様々な事件が起こり、衝撃的な出来事も起こるが、それらを通して一貫して「何を」描こうとしているのか。政治権力の恐ろしさなのか、内閣情報調査室についてなのか、それともタイトル通り新聞記者についてなのか、仕事に飲み込まれていく人々の姿なのか。一番やれそうなのは、明言せずとも圧力を掛けられてしまう日本特有の同調性について、あたりなのだが、どうにもその辺が、どれもこれも描こうとして絞り込めず手薄になっている。

 たとえば、『桐島、部活~』ではないが、最も大切で描こうとしていないもの自体は描写せず、その周縁を執拗に描くことで逆に浮かび上がらせる、という方法も考えられる。本作の場合はその方法が適切だっただろう。事件や問題そのものを描くのなら、ニュースという形でやるしかない。フィクションにする以上、それらを貫いて主題を提示する必要がある。本作はそこが弱い。

 

 とはいえ、邦画としては冒険した結果として、また、ほぼ大人の落ち着いた仕事姿しか出てこないにもかかわらず2時間退屈せずに見通すことが出来た。なぜか日本では、実話に果敢にトライすることが非常に少ないので、こうした作品がこれからも日本で作られ続けて欲しいと願う。