週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『エクソシスト(ディレクターズカット)』★★★★☆

 子役の圧倒的名演。前ふりの長さへの疑問はあれど、終盤の死闘の圧巻ぶりに満足

あらすじ

12歳の少女リーガンに取り憑いた悪魔を抹殺すべく、エクソシスト(悪魔祓い師)の想像を絶する闘いが始まる。(amazonより)

 

 頑張って苦手なホラーを見ていこうシリーズ第何弾かは忘れたが、とにかく観賞。想像していたのとはいろんな意味で異なる人間ドラマが描かれた作品で驚いた。

 全編を通して素晴らしいのは、やはり悪魔に憑かれる少女を演じる子役である。今さら言うまでもないことだろうが。天真爛漫な冒頭のシーンでは普通の子供が素を見せているようにすら見えるが、後半の悪魔に取り憑かれたあとの芝居を観れば、完全に彼女の達者な演技に取り込まれていたことがわかる。

 

 常軌を逸した動き、表情、絶叫、助けを求める泣き声、どれも目や耳に染みつくほど上手い。彼女を観ているだけで満足出来るほどで、逆に言えば彼女が出てきていないシーンはなかなかじれったさすら感じられる。あの有名な階段ウォークシーンが非常に短いのはこれも驚きだった。

 また、メインの神父役は2人とも存在感が素晴らしい。デミアンの人間としての等身大の悩みを描き続ける展開も想像外で、彼も事実上の主人公だろう。

 

 悩ましかったのは展開の遅さである。肝心の恐怖展開に至るまでが非常にゆったりとしており、何度も医者の元へ足を運んだ挙げ句、悪魔払いを紹介されるまでの長さ、そして悪魔払いを始めるまでの流れは極めて丁寧でリアルなのだが、じれったさはかなりのものがあった。

 実際に現代のアメリカでこんな事態になったらこれぐらいのテンポでないと進展しないと思うのだが、その誠実さは「ホラー映画観るぞ!」とドキドキしている人間にとっては非常にまだるっこしい。まだかまだか、いつ怖くなるんだ、とじわじわじわじわ緊張状態に置かれ続ける。途中まではもしかしたら退屈で終わるかも知れない、とすら感じた。

 

 しかし、終盤の悪魔払いの展開に本格的に移行し、悪魔の動きが本格化しだしてからそのダレ感が一気に恐怖へと転換していく。この非常に長い前半部分、さらに冒頭の日常シーンの丁寧さは、つまり、我々の日常からきちんとこの異常へとつなげるために必要不可欠なフリだったのだ。

「びっくり」で怖がらせ驚かせるためなら簡単に話を早めることができたろうが、本作はそれをせず、きちんと「現実世界」で起きる、他人事ではない恐怖として悪魔憑きを描いた。そのためには、この長尺が必要だったのだ。身近な誰かの身に起きたらどんな気持ちになるか。それを観客に味わわせるためには、ありていな「ホラー映画」の枠の中に飲み込ませてはならなかった。

 登場人物は全員、ちゃんとした人間として魅力的な人間として描かれ、そして彼らの日常が失われていく。奪うのは理由も意味もわからぬ「悪魔」である。

 

 最後まで観ても意図のわからない部分、意味のわからない部分が山ほど残るのも、本作の特徴だろう。本当に怖いものは、意味がわからないものだ。説明がつかないところに引っかかりが残り、それが観賞後にも客の脳内にこびりつく。

 サブリミナルに入れ込まれた悪魔の表情のように、「あれは一体何だったのだろう」という疑問は、いつまでも心に残っている。怖いというよりビックリするというより、これはやはり、厭な存在・「悪魔」を描いた作品なのだろう。