『スペシャルアクターズ』★★☆☆☆
映画『スペシャルアクターズ』予告 10月18日(金)全国公開
以下、全てネタバレありで書きます。
『カメラを止めるな』を公開1週間で観に行ったことをそれなりに自慢にしている人間として、やはり期待して観に行った。
感想としては残念ながら、厳しいことを言わざるをえない。
まず、根本のアイディアは非常に良いものだと思う。役者の力を使った何でも屋、というのはありそうで意外とないネタでもあるし、結構広げがいがあるからテレビシリーズになってもいいぐらいに感じる。
登場人物の見せ方なども好感を持てる部分は多く、次第にじんわりと主人公のことが好きになってくる作りは愛着が持てる。
だが、今回最大の難点になったのは、役者の演技力不足と感じられた。
無名の役者を使うことと、演技力が足りていない役者を使うことはイコールではない。ちょっとした間に演技が挟まっていないので、絵が保っていないのだ。
目の動き、表情、ただ歩いている時でも手足の動作、そうした部分にキャラクターの人柄を入れ込むことはできるはずで、そうしたふとした瞬間に「面白さ」が足りていないのは、これはキャストの力と言わざるをえない。今回の脚本のままであっても、演技力のあるキャストなら★3つくらいまでなら持ち込めたと思う。
カメ止めでは演技力そのものは低くなかったということが一つ、また、脚本のトリッキーな構造上、演技力が不可欠だったパートが中間パートのみで尺が短く、許容できたということが相当助けになっていた。今回は冒頭から直球で芝居を見せ続けなければならなかったので、この不足は痛手になっていた。
続いて足りていなかったのは純粋にアイディア。根幹となったネタは面白かったのだが、意外と小ネタが手薄で、プロットを構築するだけで手一杯だったように思える。
例えばカメ止めでも、執拗に水の硬度を気にする演者、全然人の話を聞かないプロデューサー、無駄に業界人気取った関係者、などなど、全体の構造に関わってくるほどではないが小さな笑いが随所に仕込んであり、これでくすぐりを入れておくことで、物語の大オチまで引っ張っていられた。今回はこれが圧倒的に少ない。
単純に仕掛けが複雑だったのもあってネタを入れる余地が少なかったのかもしれないが、例えば教祖、例えば事務所の役者メンバーのキャラ立てにだって、小道具や細かい動作をねじ込むことは可能だったはず。「ピリピリすると髪の毛を捻る癖がある」とかいう他愛もないネタでも、繰り返すうちに面白くはなってくるのだ。
こういうことができなかったのは(勝手な推測だが)、やはり時間的な余裕が足りなかったのではないか、と感じる。多忙の中で脚本を書き、撮影を行うとなると、プロットの大枠は組めても「くだらない小ネタ」は意外と思いつかない。これは残念だった。
また、単純に脚本としての詰めの甘さも気に掛かる。主人公のトラウマの元凶となった「父親からの叱責」も、そもそも「緊張過多になると気絶する」という癖も、ストーリーそのものにはほぼ絡んできていない=効いてきていない。どんでん返しは主人公のそうした性質と一切関係なく展開されているのは、拍子抜け感がある。
それに、どんでん返しも悪くはないのだが、中〜小程度のひっくり返しが急にいくつも発生しているので、「え? ええと」と考えているうちに筋立てが次に進んでしまう。意外とトリックそのものは複雑なのだ。客をあっと言わせるのなら、ひっくり返しは1箇所にまとめてギリギリまで引っ張り、何が起きているのかはまとめて説明した方が良かった。
例えば、「なんとか、盲信している宗教の教義を一つでも否定してやれば(例えば教祖は言葉を発さない、とか)、洗脳の第一段階は解けるのだが」という目標をストーリー上で設定して、でもそれを一旦目標から外し、「お化けで怖がらせて旅館を諦めさせる」作戦を進め、しかしあたかもその作戦が本気で失敗したかのように見せかけつつ、最終的に教祖に叫ばせた段階で全ての種明かし、という構造にすれば、どんでん返しは一回でも成り立つ。そのほうがカタルシスは強いと思う。
また、ラストの大オチについては人によって好き嫌いが分かれるだろうが、筆者としては、主人公に真実を伝える必要はなかったのではないか、と感じる。それをやってしまうと、作品を通してやってきたこと全てがなかったことになってしまうどんでん返しだからだ。
やるのであれば、主人公の全く気づいていないところで、主人公の弟が仲間たちと真実を嬉しそうに語らっている、という形でも十分に成り立つ。そもそも、あんなあっさり主人公にネタがばれてしまうような状況で、スペシャルアクターズは作戦を進行していたというのは、彼らの能力そのものに疑いを抱かせかねない。
作品そのものは嫌いではなかった。愛着を持てるところも多かったし、何度でもいうがアイディアそのものは良かった。上田監督の評価がすごく下がるような類の食い足りなさではない。次作もきっと見に行くだろう。
ただ、これからは『カメ止め』で奇跡的に成り立っていた部分をテクニックで成り立たせなければならないのだから、忙しくなりすぎて肝心の作品の練りこみが足りなくなるようなことがないよう、貴重な作品を作り込んで欲しい、と切に思う。日本映画界にとても貴重なタイプの監督であることに変わりはないのだから。