週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『スパイダーマン(2002)』★★★★☆

 

スパイダーマン (字幕版)
 

  MCUより遙か前、今日のヒーロー映画隆盛の源流とも呼ぶべき作品。大昔に一度観た記憶はあるのだが、ほとんど覚えていなかった。これからシリーズ全てを鑑賞予定。

 

 久々に観ると、この堅牢な作りにほっとする。ヒーロー映画流行前の作品は、今から観ると大体ストーリー構成にぬるさを感じる物だが、本作はスパイダーマンの持つ物語の本道・王道を行く内容で、今観ても古びてはいなかった。

 サム・ライミ監督による演出はウェルメイドで美しく、奇抜さに逃げたりしない横綱相撲(最近監督、名前聞かないけどどうしてるのだろうか)。ピーター・パーカー役は現在と比べるとかなりマジメくんの雰囲気であるトビー・マグワイア。悪役があくの強いウィレム・デフォーで見応えがある。

 今やっているスパイダーマンのシリーズは、「いかにしてスパイダーマンになりしか」の部分は意図的に語っていない。いずれやるのか、語りで済ませるのかそれとも今さらどうでもいいだろうで終わらせるのかまだわからないが、結構キャラとして説明しないといけない要素がたくさんある(のと、アイアンマンが父親役として機能している)ので不要と判断しているのだろう。

 

 正直、今から特記したくなる要素はあまりない。映画としての出来は現在観てもすこぶるよいのでオススメだし、ピーター・パーカーの運命の壮絶さとしては、現在のMCUで描くのは少々困難なくらいの重さもあって面白い。むしろ『ダークナイト』三部作にも近い深刻さも背景に抱えている。

 また、MCUの映画は「アベンジャーズのストーリー展開に接続しなければならない」というおそるべき縛りを抱えているため、ヒーローに向けられる問いかけが複雑になりすぎている(難解、でも重厚、でもなく、単に複雑)のだが、そういったくびきから自由な本作は、より本質的で骨太な問いかけを主人公に向けている。また、他シリーズとの絡みもないので、スパイダーマン自身の周囲の人物との関わり合いが濃密に描かれているのも魅力。

 極めてよく出来ている佳作、と言ってしまえばそれまでかも。でも、2作目以降はまだ観たことがないので、それによっては感想も変わってくるかも知れない。

『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』★★★☆☆

 

  たぶん、『ハング・オーバー!』以降だと思うが、アメリカ製のラフに楽しめるオッサン主体のコメディ映画には最近大体、この手のサブタイトルがついている。 

  『ホット・ファズ』なんかにもついていた。これはイギリス映画だけど。

  まあポップな雰囲気をたたえつつ、作品の内容をざっくり伝え、原題も残す、という意味だとそれなりに機能的なのだろうと思う。ただ、これをされるとどうも規格化されてしまい、どれもこれも一律に同種のコメディに感じられてしまうのはマイナスなような気もする。

 コメディ映画といってももちろん、『ハング・オーバー!』のようなガチガチのコメディもあれば、『ホットファズ』はむしろブラックユーモアのテイストが強かったりするし、結構アクション寄りだったりすることもあれば、意外なほど叙情的なときもあり、その辺のニュアンスがこの「ポップサブタイトル商法」の時点で捨象されてしまうように感じるのは自分だけだろうか。

 

 さて、本作はかなりの低予算ながら、アイディアで走りきるタイプの作品、言ってみれば『カメラを止めるな!』的な存在の作品だと考えていいだろう。『カメ止め』ほどの緻密な脚本ではないが、ブラックな笑いも込めつつ1時間30分を充分楽しませてくれる作品と言える。

 あらすじは、「きったない森の小屋を念願の別荘として購入した田舎のおっさん二人が大学生グループに殺人鬼だと勘違いされた結果のどたばたコメディ」と要約していいだろう。ちょっとした恋愛沙汰あり、ほっこりエピソードあり、アクションありのザ・娯楽といった内容だが、一方で、上記のあらすじから想像するよりも思いの外グロいネタもたっぷり仕込まれているので、スプラッタ系ギャグを笑い飛ばせない人は避けておいたほうが無難だろう。

 

 シナリオは惜しい、の一言。もう一押し二押し内容を詰められていれば、このアイディアで出来ることをもっときっちり詰め込んでいれば、傑作になり得たアイディアだろう。「頭悪そうな大学生の集団が薄暗い森の中で怪しい男に巡り会ったらそいつは大体殺人鬼」というホラー映画のテンプレをパロって、勘違いドタバタコメディがいくらでもやれそうなネタなのだが、不思議なほどその部分の掘り下げが足りない。

 むしろ、コンプレックスのある男の恋愛ものとしての側面がフィーチャーされがちで、この男のキャラがかわいくて魅力的なのだが、メインアイディアの「勘違い殺人鬼」と彼のキャラクター性がしっかりマッチしているか、というと疑問が残る。そのためにはもっと、彼が本来はどんな人間で、しかし外見はどう見えているか、同時にリア充大学生たちが内面と外面にどんな差異を抱えているかを明確化した上で、ヒロインをその狭間で揺れ動いている人物としてきちんと描写するべきだろう。

 どうも「物語として描きたいこと」と「メッセージとして伝えたいこと」がもう一つ合致しないまま、最後まで行ってしまった感が否めない。悪くない作品なのだ。観て損するとまでは言わない。ただ、惜しいな、という仕上がりだった。

『ポリス・ストーリー 香港国際警察』★★★★☆

 

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  ジャッキー映画は実はほとんど観てきていない。Netflixにまとめて入っていたので、ここらで観てみようと観賞。

 正直なめてかかっていた自分が恥ずかしいぐらい、ガチンコでヤバイアクションに大興奮。トム・クルーズで騒いでいる場合じゃなかった。

 

 冒頭の山奥の村での荒っぽいガンアクションは苦笑していたが、細部よりも演者たちの狂気の宿った目付きに次第に緊張感が高まり、そしてそのまま始まるカーアクション、そして伝説のバスアクション(これはウッチャンがパロディをやっているのを昔観た記憶がある)。夜中にベッドで観ていたのだが、興奮で声を上げてしまった。

 最近のアクション映画ももちろん面白いものは山ほどあるのだが、当然どの映画も安全に最大限配慮して撮影が行われている。俳優の命が大切なのは今も昔も変わらないとはいえ、今はワイヤーなどで身体を護ってもあとでいかようにでも加工が出来る。この時代の映画では当然そんな安全策など欠片もないのだから、ただただ危ない物は本当に危ない。それでも、「ウチの映画はよそより面白い」ということをみせるためには、本気で命を賭けるしかなかったのだろう。

 

 また、当然アクションは素晴らしいが、それ以上に意外なほどストーリーがちゃんとしていた。あらすじは、「一種の司法取引で証人になってもらう悪役の秘書を主人公が守り抜く」というしっかりした内容で、コメディとして描いてはいるものの、安易な恋愛沙汰にも逃げず、それでいて展開に無駄はなくアイディアに不足はない。

 その上、中盤の裁判シーンではそれなりの説得力のある論展開で、悪役を追い詰める困難ぶりを正面から描いている。こういうシーンは面倒くさくなると「なに!? 保釈ってどういうことです!?」みたいな言葉を一言挟んだら済ませられるのだが、なにせこれをきちんと描く必要がある作品なのだ。

 ほとんどのシーンが荒唐無稽な捜査活動を行っている以上、他の部分は補強としてリアリティを持たせなければ、ストーリー全体に説得力が生まれない。登場人物の心理も、早足ではあるもののきっちり転がし続けている上、「話を進めるために登場する頭の悪い人物」的なキャラクターが登場しないので、この時代の大衆エンタメ映画としてはかなり小気味よく見続けることが出来る。

 

 もちろん、荒っぽい部分がないとはいわない。主人公が突然怒り出したシーンでは少々置いてけぼりにされた感もあった。シナリオも作りながら考えていった部分もきっとあるだろう。だが、全体として、この時代のこの場所の熱気、そして、「いい映画を作って成り上がっていきたい」という情が全面に感じられて、細部はまあよし、と言わせてしまう迫力に満ちている。さすが。

『エンド・オブ・キングダム』★★☆☆☆

 

  前作『エンド・オブ・ホワイトハウス』は以前鑑賞しており★4の評価をしていた。正直ストーリーは全く覚えていないのだが、それなりにアクション映画として楽しんだ記憶が在る。北朝鮮に襲撃されたホワイトハウスの話で、

1.長期にわたって進められた計画に全く気づけないガバガバの警備体制

2.むしろ警備側に大量に敵が潜入

3.大統領を助けられるのは主人公1人だけという人材不足

といった疑問点もあったものの、まあ何か楽しければいいや、というぐらいの気持ちで評価していたと思う。

 

 

 個人的には、アクション映画はアクションを楽しむのが主眼なので、ポリティカルサスペンスとしての完成度が多少低くても、アクションの邪魔にならなければOK、というのがスタンスである。そもそも現実でアクション映画みたいな事件が起きていない以上、きちんとした世界観を遵守していたら面白くなんてなりようがない。

 

 なので「こんなこと起きるわけ無いじゃん」的な批判はしないのだが、にしても今回の『キングダム』はいろいろ緩すぎないか、といわざるを得なかった。

 まず、先に書いた1~3の問題は以前に増している、というかもう悪化している(笑)。もうちょっとスマートな方法で各国首脳を襲撃するのかと思っていたが、そんなことはなく警備の半分くらいはテロリストに入れ替わっている。イギリスやべえぞ。

 爆弾だの銃剣だのを運んだ車がぶんぶんロンドンを走り回って首脳を殺しまくるのだが、検問とかやらないのだろうか。6ヵ国もの首脳が集結する葬儀である。確かに突発的に葬儀は発生するものだが、逆に言えばいつ起きたっておかしくない事である以上、平時からオペレーションの計画ぐらいは組んでいるものだろう。

 そしてもちろん、アメリカ側の警備はテロ開始三十分ほどで全滅してしまい、主人公以外大統領を助けられる人はいないのだ。ゴジラに襲撃されたんじゃないんだからもうちょっと何とかならなかったのか。

 

 くわえてもう一つ、本作は政治的側面からも疑問を感じる。そう言うと大げさだが、単純に主人公たちに共感出来ないのだ。犯人サイドの動機は「娘の復讐」というこの上なくシンプルな物で、復讐したくなるのも無理はないほどの残虐行為をアメリカ側から働かれている(復讐を肯定するつもりはないが、あくまで一人間として理解は出来る)。一方で犯人サイドも非人道的行為を世界的に働いている連中なので、そこから考えると許しがたいヤツらとも言える。

 だったら「この世に単純明快な正義なんか無い」「俺にも子どもがいるから怒りに燃えるお前の気持ちはわからなくはない」とか、いろいろと言えることがあるだろうと思うのだが、本作では驚くべき事に、一切そういうフォローがない。

 通常、犯人サイドに娘がいて、同時に主人公に子どもの描写があった場合、そういう犯人サイドへの思わぬ共感の前振りのためだと思うのだが(そのほうが物語に厚みと意味が生まれる)、本作ではその振りを華麗にスルーし、「アメリカの理想は1000年先も変わらん!」みたいな悪役みたいな事を言い始める。さすがに笑ってしまった。アメリカ万歳映画に見せかけて、全編皮肉を描くのが真の目的だったのだろうか。

 

 いくら単純明快な娯楽を目指すとはいえ、現代で相対化された正義と悪を無邪気にスルーして勧善懲悪のお話作りをするのは、もはや罪とすら言えるだろう。どうしても悪を描きたいのなら懸命の努力で絶対的な悪を作り出してみるべきだ。非常に難しいけれど。あのラストシーン、モーガン・フリーマンともあろう人が何を考えながら演じていたのだろうか。

『アドレナリン』★★★★☆

 

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  風邪を引いてずっと寝込んでいるので、寝込みながらなんとなく観るのにちょうどいい映画を選んでみた。正直一切期待せずに見始めたのだが、思いの外挑戦的で締まりのある内容に大変満足。

 シナリオは非常に単純。主人公のジェイソン・ステイサムが毒を打たれ、アドレナリンを体内で出し続けないと死んでしまう状態になってしまう。だもんでありとあらゆる手段でテンション上げまくりながら自分に毒を打った奴を探しに行く、という話。アクション映画はシンプルかつパワフル、そしてオリジナルな筋立てが最高。

 

 上記のような設定なのでとにかくステイサムは頭から終わりまでキレつづけている。どうしてもまともな映画だとどこかでしんみりする下りを作らざるを得ないのだが(まともな人間ならどこかで落ち込むのが普通なので)、そこでテンションをリセットする手間すらも省いてとにかく暴走し続けている。それでも何とか保つよう、映画そのものも90分ちょっとのちょうどいい尺。

 シナリオもワンアイディアをきっちり転がしきっている。アドレナリンを出し続けるためにはどんな行動が必要なのか。まさかしないよな、と思っていたこともどうどうとやりきってしまうのはギリギリ時代的に許されたからなのか、今のステイサムのポジションだとやれないだろうな、という目を疑うようなシーンも平気で登場するので笑ってしまう。

 想像以上に「おバカアクションコメディ」に近い内容なので、一生懸命アドレナリンをほとばしらせるために疾走する本気の主人公は、笑いを取りながらも手に汗握らせてくれる。きっちりこちらの想像を数段超える内容を、ステイサムが全力で演じきっている。ただ、その分、顔を顰めるようなシーンも多いので万人には勧めがたい内容かも。

 

 そして「やり過ぎ暴走おバカ」の行き着く先として、奇妙に切ない、やりきったところに物語は辿り着く。行きすぎた暴力は笑いに繋がるが、本作も気持ちのよい幕切れを選択しており、無駄は全く無い(なぜか続編があるようだが、観なくていいだろうという気がする)。

 もちろんシナリオの細かい粗や撮影のミスなどは散見されるが、大した問題ではないだろう。余計な欲がなく、大人の配慮もない、やりたいことをライトスタッフと共にやった佳作。

『ゲーム』★★★★☆

 

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  デヴィッド・フィンチャー監督作品は大好きなのだが、この作品はまだ観れていなかった。どうやら日本の配給元が他作品と異なるらしく、扱いが悪い状態が長年続いているため未だに国内でブルーレイ化もされていない。ネットフリックスに入ったのでようやく視聴。

 途中までは評価に悩んでいたが、終盤三十分ほどでようやく納得した物語。万人に勧める気にはならないが、最終的には嫌いではない作品だった。

 

 フィンチャー監督作品の中でも特に言及回数が少ない作品なので、内容に問題でもあるのかと不安に感じながら見始めた。そのせいもあってか、全体の半分近くまでは退屈にすら感じられるシーンが続く。起きる出来事の凡庸さ、単純なサスペンス、あまつさえ安っぽいロマンス。97年の作品で『セブン』の2年後なので、若手とは言え妥協のない作品作りはすでに知られている時期のはずだと訝しんだ。

 ところが、そうした「くだらなさ」自体が作品の仕掛けであり意味がある、と次第にわかるにつれ、緊張感は高まっていく。あえてネタバレは避けるが、どこまでもインフレを起こしていくことで全てに対する不信と不安を高めていく。安心と停滞の中に生きていた主人公を、段階を踏んで追い詰めていくために「くだらない」とすら感じられるサスペンスフルな過程が必要だったわけだ。

 

 終盤の盛り上がりと絶望は面白く、そこからの開放感はあってよく出来てはいるものの、「だからどうした」と感じる人も少なからずいるだろう。内容的には星新一ショートショートでもありそうだし、彼の作品ならもう少し気の利いたオチを付けているかもしれない。

 また、作品冒頭でも言及があった自己啓発セミナーや、カルトの手口との共通点もあるので、このエンディングを真正面から受け止めるべきではないかも知れない。結局は馬鹿馬鹿しい「ゲーム」を徹頭徹尾見せつけられたに過ぎないからだ。そもそも主人公は性格の悪い金満家、という感情移入困難なタイプなので、彼が多少救われたところで他人事なのに変わりは無い。ストーリーそのものはハッピーエンドに見せているが、フィンチャーがそんな素直なことをするかどうか(スタジオから要求されてそんなエンディングを用意したとしても)、違和感は残る。

 その疑問や不信感も含めて、最後には楽しめる作品だった。

『ジョン・ウィック:チャプター2』★★★★★

 

  『マトリックス』は公開当時リアルタイムで観ていた。中二心の塊のような世界観で、なんかよくわからんがカッコイイ魅力に充ち満ちていたので、未だに自分への影響は大きい。その後、キアヌもウォシャウスキー姉妹もパッとしないまま二十年ほどが経過していたが、キアヌのほうが先に脱出に成功したのが本作の前作、『ジョン・ウィック』だった。

 

  こちらも以前鑑賞していて、★3つといった印象だった。筋立て自体は薄味で、妻と大切にしていた犬を殺された復讐に元殺し屋の男が闘う、というだけ。一作目の時点では予算もおそらくそこまでではなかったのか、それほど印象に残るシーンも無い。アクション映画としては平均よりやや上、魅力的なのはキアヌの存在感ぐらいか、といった印象だった。映像そのものは綺麗だったが。

 しかし、2作目になって一気に魅力が増したのには驚いた。

 

 まず、アクション自体がこの作品、非常に独特だと感じる。緻密に組み上げられたアクションほど、ある種のダンスのように見えてしまいがちだ(こと、『マトリックス』はそうだった)。しっかり練り上げたからこそ、本当に闘っているようには見えなくなってしまう。実際に殴り合いをしているときはやりながら考えて、相手に手を出しているので、動きは少しずつどんくさく見えてしまうのが本当だろう。実際の格闘技を観ていてもそのように見えるが、映画の闘いはこの手が出たら次はこう、というのが決まっているのだからある程度は仕方ない。

 しかし、本作は動きがいい意味で洒脱ではないのだ。最初、1作目を観たとき、キアヌも老いて動きが鈍ったか、と思ったのだが、おそらくそうではない。ジョン・ウィックは痛めた身体をきちんといたわり、足を攻撃されたあとはしばらく引きずり、闘うときは次の一手を考えながら攻撃している(ように演技している)。おかげで、他の作品とは少し違ったリアリティが生まれている。

 

 そしてそのリアリティがこの作品の場合、非常に大切である。世界観自体が少年漫画のように荒唐無稽なので(NYの住人の半分くらいは殺し屋なのだろうか)、アクションや演技がリアリティを感じさせなければならないのだ。そのギリギリのラインを付けているので、馬鹿馬鹿しさに醒める瞬間がない。

 くわえて、この世界観を説明しないのがよい。いろいろと背景に秘密やルールがありそうな殺し屋の世界が登場するのだが、展開上必要なこと以外は何も説明してくれない。おかげで「たぶんこういうことなんだろう」と想像するしかなくなり、説明しない分破綻もなくなる。

 さらに、前作から引き続いて「妻との思い出」を執拗なまでに破壊されるジョン・ウィックの姿を観て、本作の狙いが非常に明確になった。手に入れたはずの日常を嘲笑気味に壊され、徹底的に傷つけられる主人公の悲しみ、暴走するしかない感情を前作から引き続き積み上げて描写している。

 

 1作目を観たときはてっきり、繰り返し系の作品(007的な)かと思ったので、毎回こんなことを繰り返していろんな復讐をやっても飽きるだけだよな、と誤解したのだが、このシリーズはどうやら、一度引退した殺し屋が全てを失いながら他の殺し屋たちと闘わざるを得なくなる、崩壊の物語のようだ。果たしてこのままどこへ辿り着くのか、3作目も観たくなった。

 言うまでもないがアクションの質は絶品で、目を疑うような動き、どうやって撮影しているのかわからないハードなバトル、カーアクションもクールだが『ボーン』シリーズほどハードでリアルになりすぎない、程よい「おとぎ話感」を残している。ちなみに3作目の予告編はかなりぶっ飛んでいて、期待出来そう。