『機動警察パトレイバー2 the Movie』★★★☆☆
機動警察パトレイバー2 the Movie [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
- 発売日: 2008/07/25
- メディア: Blu-ray
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2作目。なんとなく思ったが、『攻殻』でも『うる星やつら』でも、押井さんは映画の2作目になると作品の前提を壊したくなるのだろうか。『パトレイバー』も含め3作ともそうなのだが、「これ、このシリーズでやらなくてもいいよね」という内容。内容自体は濃いのだけれど。
1作目はがっつりレイバーの格闘やキャラの愉しさがある「パトレイバーらしい」内容だった。対してこちらは、日本を舞台にした戦争(未遂)映画としては緊張感がすごい、秀逸な内容なのだが、一方でパトレイバーの世界観でやらなければならない必然性は全くない。レイバーが出てくるシーンを別の、戦車とかで置き換えてもすべて成立する。そもそもレイバーが出てくるシーンがほとんどない。
「パトレイバーらしい」というのは作品世界に仕込まれた前提をきちんと使った、シリーズの中に配置される理由がある内容、というぐらいの意味なのだが、この作品でやっているのは自衛隊によるクーデター、日常に戦時が入り込んでくる静かな恐怖、そしてその事態から宿命的に逃れられない女性・南雲、あとはオッサンを描く、といったあたり。それに、レイバーは一切絡まない。
音も立てずに壊れる日常、溶けるように侵食してくる戦時、それを何も言わず漠然と受け入れていく一般人たち、の描写の不気味さは極めて秀逸。大きくわかりやすく盛り上げることもなく、この内容を淡々と緊張感を保ちながら描き続けるのはかなり難しい。通常、映画は明確な構成を保っているが、この作品の場合はただじわりじわりと緊張が高まっていく一方。実際に戦争が始まるときは、こんな感じなのだろうな、と容易に想像させてくれる。大震災が起きたとき同様、戦争は日常なのだ。日常と地続きに、何の結節点もなく、馬鹿馬鹿しいほど平然と始まるのだろう。
だがそれはそれとして、それをこの設定で描く意味がどこにあるのか、特車二課の数年後として描いてどうするのかと言えば、特にない。単にやりたいことをやるチャンスがここにしかなかったからやっただけだろう、とすら思える。
実際、オリジナルのアニメ企画としても実写企画としても成り立たない種類のプロットなので、ここでやるしかないのはよくわかる。わかるのだが、どうなのだろう。もう少しレイバーの世界観を生かすやり口はなかったのだろうか。
前作がエンタメ邦画なら、本作は文芸的な戦争邦画として画期的な作品だろう。非常に凄いことしていて、実写でこのレベルの内容をやるのは間違いなく不可能。観る価値はある。だが、これはパトレイバーではない。