週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『トゥルーマン・ショー』★★★★★

 

トゥルーマン・ショー(通常版) [DVD]

トゥルーマン・ショー(通常版) [DVD]

 

  『バブルへGO!!』を観るのがあまりに苦痛だったので現実逃避として見始めた。驚くほどの傑作で、完全に苦しみを取り返したレベル。どういう内容なのかは事前によく知っていたが、あらすじから思い浮かべる浅い想像を大きく超えてくる内容で、飽きる瞬間がなかった。

 

 内容はよく知られているとおり、主人公・トゥルーマンは至って平均的なアメリカ人で、平穏な人生を送っていたが、実はそのすべては完全にコントロールされたスタジオ内の街で展開されるもので、彼の人生はテレビショーとして全世界に放送される物だった・・・・というもの。誰もが人生で一度は考える妄想を、そのまま作品にしている。主役は一番活躍していた頃のジム・キャリー。彼が、極めて薄っぺらい白人男性(にみえる)主人公を好演している。

 基本的にはこのあらすじをきいてイメージする範囲からぶれないのだが、しかし一つ一つのつくりはとても丁寧。たとえばカメラアングルも、途中まではすべて、盗撮アングルになっている。主人公に気づかれないよう劇中の街に配置されているカメラの視点でほとんどすべての場面が構成されているのだ。『笑ってはいけない』のカメラのような感じ、といえば伝わるだろうか(あの番組も配置された隠しカメラは演者からは見えないようになっている)。あるいは、『テラスハウス』のような。

 このこだわりのおかげで、映画の観客もまた、『トゥルーマン・ショー』の客の1人であるかのような気持ちにさせられる。劇中の世界に取り込まれたような、「共犯者」の1人にさせられるような感覚はときおり、顔を引きつらせるような不安を覚えさせる。ボケッとした顔をして、他人の人生をへらへら笑いながら消費しているのは誰なのか。思わず真顔になる。

 

 実際に今も、特にアメリカではリアリティショーが人気だと聞くが、この物語はもちろん、あり得ない寓話。人生の一番最初、生まれる前から描かれ続け、30年続く人気番組になっているという設定は、もちろん嘘としか思えないながらも奇妙な説得力を持つ。人の人生を二十四時間ドラマ化し続ける、という荒唐無稽な設定も、ぎりぎりのリアリティを感じさせられるように細部が詰められているので、醒める瞬間がない。

 特によく出来ているのはショーランナー(ディレクター兼プロデューサー的なポジションのキャラクター)の造形で、軽薄な人間ではなく、一種の哲学を持って信念と共にこの番組をやり遂げている人物として描かれている。彼もまた30年という長きにわたって一つの番組、一つの企画をやり続けてきた、表に出たがらない伝説の人物、カリスマ性の塊として描写することで、これくらいの人物ならこれだけの困難も乗り越えてきたに違いない、と感じさせてくれる。

 

 劇中で主人公は「スター」と呼ばれる。そして定期的に、カメラの外で番組を無責任に視聴している世界中の人々が登場する。彼らは終始一貫して、仕事中あるいは家で楽しげに主人公の人生劇場を眺め、一喜一憂する。主人公の人生が上手くいけば喜び、危機が訪れると悲しげなリアクションを取る。ごく普通のドラマを観ているときと同じように。過去に起きた出来事を知っている長年のファンは、周りの友人にその知識を得意げに語ったりする。一見するとそれは異常な光景のようにも見える。

 しかし、やっていること自体はごく普通のハリウッドスターに対して我々がとっているリアクションと特に変わらないだろう。たとえばジム・キャリーは長らく目立った成功作がないが、彼の人生に対して我々が抱く感想、冷笑的であったり同情的であったりする感情は、本作の劇中の観客が抱くそれらと構造としては何の違いも無い。ドラマを構成するショーランナーがいるかどうかの違いだけだ。

 

 ラストシーン、観客たちは主人公の決断に快哉を上げる。一見すると大団円のシーンのように感じられるが、筆者は観ていて、彼らの姿は不気味にしか感じられなかった。彼らの万歳には、何の意味も無い。その瞬間画面に映った出来事に対して通り一遍の感動を抱いているだけで、主人公の人生のこれまでと今後に対して、論理的な筋道のある思考は何も持っていない。脊髄反射的な娯楽の消費。人1人の人生を暇つぶしに使う人々の気味悪さがここに集約されている。

 そしてその後、すべてが終わった後に登場人物が呟く最後の一言が本当に秀逸。トゥルーマン・ショーは、しょせんたくさんあるテレビ番組の一つでしかないのだ。

 

 普段は大仰にすら感じられるジム・キャリーの演技がぴたりと嵌まった快作。

 本当の冒険は、人生の枠すら破壊していく物なのだ。この馬鹿馬鹿しいとすら言えるアイディアを、浅薄な道徳や倫理の範疇におさめなかった脚本も素晴らしい。この壮大な寓話の結論は、言葉にしては語られなかった。ラストの表情は、エンタテイメント業界で生き抜くジムでなければ表現出来なかった物だろう。オススメ。