週に最低1本映画を観るブログ

毎週最低1本映画を鑑賞してその感想を5点満点で書くブログ。★5つ=一生忘れないレベルの傑作 ★4つ=自信を持って他人に勧められる良作 ★3つ=楽しい時間を過ごせてよかった、という娯楽 ★2つ=他人に勧める気にはならない ★1つ=何が何だかわからない という感じ。観賞に影響を及ぼすような「ネタバレ(オチなど)」は極力避け、必要な場合は「以下ネタバレあり」の記載を入れます。

『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』★★★★★


【本編映像】<新たな脅威 エレメンタルズ>編 映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』6月28日(金)公開

今こそ描くべきヒーロー映画の姿を追求し続ける、さすがのマーベル映画最前線

あらすじ

夏休みに学校の研修旅行でヨーロッパへ行くことになったピーターは、旅行中に思いを寄せるMJに告白しようと計画していた。最初の目的地であるベネチアに着いたピーターたちは水の都を満喫するが、そこに水を操るモンスターが出現。街は大混乱に陥るが、突如現れた謎のヒーロー、ミステリオが人々の危機を救う。さらに、ピーターの前には元「S.H.I.E.L.D.」長官でアベンジャーズを影から支えてきたニック・フューリーが現れ、ピーターをミステリオことベックに引き合わせる。ベックは、自分の世界を滅ぼした「エレメンタルズ」と呼ばれる自然の力を操る存在が、ピーターたちの世界にも現れたことを告げる。(映画.comより)

 

 今回はネタバレなし、ありで分けて書く。

 

 まず、ネタバレナシで言うと、もうシンプルに期待を裏切らない快作。ジェイク・ギレンホールは以前から好きな俳優なので出演を訊いて楽しみにしていたし、本シリーズのMJはヒーロー映画史上一番魅力的で面白いキャラクターだと思う。もちろんスパイダーマン自身の演技も見事、さらにあの『エンドゲーム』から続くとなると、これは期待せざるを得なかった。

 その期待に見事答えてみせた。全作品観ていると、やはりシリーズ1作目がよくても2作目はテンションが下がることが多いのだが、本作は1作目で提示したテーマをきちんと転がしつつ、極めて現代的な主題を中心に据えてみせたのがすごい。キャラクターの関係性も進めつつ、MCU全体の状況も、次のフェイズ4へと押し進めてみせた。

 

 風光明媚なヨーロッパ諸国の景色も楽しむことが出来、目が飽きることはなく、アクションのアイディアも豊富。気になることは一つあるのだが、それはネタバレありのほうで書こうと思う。その点も、描くべき事があまりに「難しい問題」だからこそ、この映画の中では答えの出しようがなかったから、なのかもしれない。

 実はそれは、1作目でも同様だったのだ。あの悪役が抱えている問題の本質は、スパイダーマンは解決することが出来なかった。ある種の後味の悪さはあり、それは主人公が子供だからこそ、どうすることもできなかったポイントでもある。

 

 スパイダーマンは他のヒーローと比べても年若く、出来ることも限られている。未熟だからこそ、ただ立ち向かうしか出来ない青さを堂々と正面から描けるのも、今回のシリーズの見所なのだろう。さらに1作目と共通している点がもうひとつあった(これもネタバレのほうで書く)。

 これらの点でも、一貫した方向性、狙いを保っている希有なヒーローシリーズである。ユーモアのセンスも抜群な、青春映画の良作。

 

 以下、ネタバレありです。

 

 

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 さて、まず凄かったのは、ミステリオの正体を現代のフェイクニュース、「ポスト真実」問題に繋げてみせたところ。

 人は観たいものだけを観て、興味のないものには鼻も引っかけない。そして嘘を本当のように見せかけることで力を得ることは容易に出来る。それを原作にあるミステリオのキャラクターと結びつけつつ、MCUの世界観の中でリアルに展開してみせたのが素晴らしかった。

 ミステリオは原作でも、「映画の特殊効果を使ってスパイダーマンを騙す」というヴィランらしい(未読)。正直、実写で上手くハマるとは思えない荒唐無稽なタイプのキャラなのだが、これを過去作の要素を引用することで、この世界なら可能だと思えるホログラム技術を使ったハイスペックかつ性格の悪い悪役に仕立ててみせたのが上手い。

 

 さらに、このアイディアによって現実社会での大問題を、スパイダーマン、そしてアベンジャーズの物語の中に導入してみせたのも素晴らしかった。実際はヒーローでも何でもない人間が、マッチポンプで悪人を作り出してそれを倒したかのように見せかけ、さらに別宇宙からやってきたといういかにもな物語を作り出すことで地位と権力を手に入れる。非常に示唆に富んでいる。

 くわえて、この悪役、1作目から一貫しているポイントとして、「トニー・スターク(&アベンジャーズ)のやらかしたことがきっかけで生み出されている、ごく普通の人間」というところが共通している。何かの改造をされたり力を注がれたり、あるいはナチュラルボーン超人だったりもしない。

 

 スパイダーマンの世界観からして、異様な力を持ったミュータントのような人間よりも、人間らしい矮小な動機で動く、ある意味ちっぽけな悪役のほうが馴染むし、そのほうがより親近感を覚える。そして、あんなダイナミックな力業でヴィランを矮小化しながらも、スタークインダストリーの技術を手に入れさせることで本物の軍事力を手に入れさせて、退屈なキャラにしないという流れも非常に巧み。

 そして、こんなキャラ造形にジェイク・ギレンホールは本当にぴったり。彼の目や、非常に怪しげな雰囲気はどうにも信用しがたい雰囲気をどこかに漂わせているし、同時に相貌がどこかロバート・ダウニーjrを思わせるのも、完璧なキャスティングだった。

異世界の謎のヒーローに半笑いで化けている人」という極めて悪質で厭な人物で、ともすればヒーロー映画そのものを台無しにしかねないキャラを、圧倒的な演技力でねじ伏せてみせたのはさすがとしか言いようがない(ラストの死の演技も圧巻)。

 

 先に書いた「唯一気になったポイント」、それは、本作の中でこの、フェイクによって簡単に操られてしまう人々、そしてスパイダーマン自身、という大きな問題の具体的な解決を提示出来なかった点にある。本作は大問題を提示しながら、「その問題に対してはこうすればいい」という答えはない。さらに、ラストのシーンでもわかるように、物語そのものがきちんと終わっていないのだ。ミステリオには結局、してやられたのである。

 人を疑うことは出来るようになった。けれど、その先でどうやって「信じる」ことができるのか。第2作で提示されたこの問題は、全世界を信じられなくなった次作で更に大きく展開されるのだろうが、この2時間強の物語の中では答えを提示出来なかった。『BTTF』のような「次回に続く!」系のラストなのだ。

 

 ひとつには、答えを出すのがあまりに難しい問題だから、ということでもある。そもそも現実でも、フェイクニュースが製造され続ける世界に対してどう立ち向かうべきなのか、明確な答えは出せていないと思う。今回の物語でピーターは、痛みと苦悩を追いながら、人を信じることの難しさを学んだ。学べはしたけれど、「どうすればいいのか」という答えは結局、出なかったのだ。

 一律に答えが出せるほど簡単ではなく、極論をすべきでもないだろう。たとえば『シビルウォー』でも問題への答えは出なかった。『キングスマン』の悪役も、「正義は必ず勝つ」で締められるような簡単な悪役ではなく、最後まで世界に矛盾と皮肉を提示して終わる。観客の胸にとげのように残るのだ。

 『ホーム・カミング』でも『ファー・フロム・ホーム』でも、どこか釈然としない悲しみ、痛みが残る悪役の人物造形だった。本シリーズは、少年ピーターが痛みを負いながら、少年から青年へと成長を遂げる物語なのだ。「ポスト真実」という壮大な問題を扱いつつ、「人を信じる」という一少年にとっての切実な問題をも扱ってみせる。素晴らしい脚本だった。

 

 2作連続でこう来たということは、これがこのシリーズの狙いなのだろう。果たして3作目で、ピーターの物語にどんな結末を付けるのか、そして、彼は最後に、どんなヒーローになっているのか。おそらく数年後の公開になるのだろうし、現時点では想像持つかない。きっとその作品も、誠実に社会の問題を見据えた内容になるに違いない。