『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』★★★★☆
ウェルメイドな冒険譚。安心して楽しめる、美しく少しビターな小佳品
あらすじ
スター・ウォーズ屈指の人気を誇るハン・ソロは、いかにして愛すべき悪党<ハン・ソロ>となったのか?銀河一のパイロットを目指すハン・ソロと、生涯の相棒チューバッカ、そして愛機ミレニアム・ファルコン号との運命の出会いとは?幼なじみの美女キーラや悪友ランドらと共にカリスマ性を持つ謎の男ベケットのチームに加わり、自由を手に入れるため危険なミッションに挑む。果たして彼らは次々と迫る危機をどう乗り切るのか!?ルークやレイアと出会う前、若きハン・ソロの想像を超えた知られざる物語を描くアクション超大作!(アマゾンより)
調べても上記のような販促文しか出てこず、あらすじがないのだがどうしたのだろうか。
シリーズ中唯一観ていなかった作品を鑑賞。監督は好きなので観たい気持ちもあったのだが、制作過程でのごたごたばかり耳に入ってきたのと、エピソード8を観て僅か半年での公開ということもあって結局映画館では観なかった。
感想として、さすがによく出来た冒険映画であり、登場人物も魅力的でわくわくしたが、内容的には想像以上に小さめでこざっぱりとした青年の成長譚で、これが確かにスター・ウォーズ史上トップクラスに制作費が掛かった作品とは思えない。
事前にギャーギャー言われていたほど、主演がハン・ソロに見えない、ということはなかった。個人的に別にハリソン・フォードが死ぬほど好きというわけではないので気にならないだけかも知れないが。芝居もハン・ソロらしい皮肉っぽいところも随所に見えながら、人間としてこなれていない部分も上手く描かれている。
ヒロインも美しくかつ厚みのある人物像で、『ローグ・ワン』に引き続いて魅力的で面白いドロイドも登場、起きる事件もワクワクさせ、さらにエピソード4へ繋がる要素もあり、プラス、意外な人物の再登場でにやりとさせてくれる、サービスたっぷりの一品。なのだが、どうにも乗り切れない気持ちが残ったのも事実だ。悪いところは見当たらないのだが、凄くよいところもこれといってない。
特別素晴らしいと思った点として、カメラワークが挙げられるかも知れない。ついついスターウォーズのようなSF作品は、現実ではあり得ない挙動をするカメラを頻発させてしまい、CGだなぁと意識させてしまいがちなのだが、本作では徹底してカメラの設置されている位置、撮影するときにどのように動いているか(もちろん全てCGで作られて居るであろうシーンも含め)きっちり設定されているので、不思議なリアリズムを生み出している。
だがそれ以外だと・・・・この作品は、果たして何を描きたかったのだろう、という疑問は残る。たとえば『ローグ・ワン』は、エピソード4をより魅力的な物語にするというプラスの効果を与えている。しかし本作は、謎だったハン・ソロの過去を明らかにした、以上のどんな意味があっただろうか。
明かされなくても「いろいろあったんだろうな」ぐらいは誰もが思っていたことである。描くからにはそれ以上の何かが欲しい。ないのであれば謎のままにしてもらったほうが、面白い。どうしてもやらないといけない映画の企画に、ちゃんとした意味を持たせつつ過去作と矛盾しない筋書きを作るのは、かくも難しいものなのだ。
SFやファンタジーの場合、元ネタになった戦争や社会問題が見え隠れすることはよくあるが、この場合、「元ネタを映画にするのと変わらん」、つまり、わざわざフィクション化する意味が薄い、ということがままある。エピソード1~3がナチスの台頭と変わらん、に近い批判で、わざわざ非現実的な世界を設定するからには、現実では描けない感情や感覚、シチュエーションを作り出すことで、現実を逆照射的に描き出す必要がある(そういう意味でもMCUはとても上手い)。
そして、スター・ウォーズは基本的に設定を緻密に組み上げたSF冒険ものなので、そうした隠喩的なテクニック、現実以上に現実を巧みに描くことが難しい。現実でやれることをSF世界に移した、以上の意味を生み出すことが難しいのだ。