『悪魔のいけにえ』★★★★★
やりすぎると笑えてくる、シンプルイズベストの美しき残虐ホラー
あらすじ
1973年8月18日。真夏のテキサスを5人の若者を乗せて走るワゴン車。周辺では墓荒らしが多発していて、遺体が盗まれるという怪事件が続いていた。フランクリンとサリーは、自分達の祖父の墓が無事かを確認する為、サリーの恋人ジェリー、友人のカークとその恋人パムと一緒にドライブ旅行をしていた。 途中、乗せたヒッチハイカーの男に襲われるハプニングが発生。車を停めて男を降ろすが、これはこの後彼らに降りかかる悲劇の始まりに過ぎなかった。(amazonより)
おっかなびっくり無理して観るホラー映画として、著名な本作をチョイス。どれぐらい怖いのか全く読めず、冷や冷やしながら見始めたが、想像とは異なる方向での作り込みに満足した1作だった。
事前に想像していたのは、とにかくえげつないスプラッタだろう、というイメージだった。しかし観賞してみると、意外なほど血糊や残虐描写が少ない。むしろ演出やじらしでびくびくさせるほうがずっと多く、短い尺の中でむりやり残酷なことをやらなくてもきちんと緊張感を保てている。
ビックリ系のホラーでもないので、そういう恐怖も感じずに済む。前半はとにかく「これから何か起きそう」といういやな予感だけで引っ張りまくるのだが、これがバリエーションが多いので飽きが来ない。画面に映っている全てが、何かを引き起こしそうな予感に充ち満ちている。
キャラクターが殺す側、殺される側、ともにしっかり立っているのも好印象。正直、殺される若者集団も全然好感が持てないヤツばかりなので、惨殺されても別に何も感じなくてグッド。むしろ殺人鬼集団のほうが人間くさくて、特にレザーフェイスは少し可愛げすらある。
面白かったのは、殺人鬼一家の設定が、観ていても全く伝わってこなかったところ。一体こいつらは何者なのか、なぜこんなことをしているのか、そもそも何をしているのかすらよくわからない。これは、被害者側と視点を同じにすることで理不尽、不条理な恐怖や絶望を増幅する効果を生んでいる。
得体の知れない田舎にやってきて人里離れた民家で、わけのわからないルールで生きているヤツらに捕まえられて助けもない、という感情を、極めてリアルに再現するには、余計な設定の説明は不要なのだ。目の前で起きたことが全て。
想像だけさせられるのが、逆に恐怖を煽る(続編ではこの殺人鬼一家の設定が膨らんでいるらしい。もったいない)。レザーフェイスだけが出てきているあたりまではちゃんと怖いのだが、彼ら殺人鬼が全員集合して家族として喋り始めると、とたんに荒唐無稽感がまして笑えてくる。
また特筆すべき点として、映像が美しい点が挙げられる。予算がなくとも哲学がしっかりしていてロケハンを頑張れば、想像を超える画面(ことにラストシーン)を作り出すことも可能なのだ、とわからせてくれる。短いけれど中身はしっかり詰まった良作。